壱、高校生活
「准一~朝ご飯できたからおりてらっしゃい~」
「んうぅ……」
「准一~早く降りて来ないと朝ご飯冷めちゃうわよ~」
「うぅん…」
「准一‼いい加減にしなさい!!‼」
バタンッ!
「うぅん?」
眠たい目をこすり、景気良く開かれたドアに目を向けるとニコニコしているお母さんがいた。
「早く、起きなさい?」
「はっ、はいぃ‼‼」
目は全く笑っていないが。
「それじゃあ、下で待ってるから早く着替えて降りて来なさいよ。」
「分かりました!」
ドッドッド…
お母さんが階段を降りる音が止まったところで体中の力がやっと抜けた。
「はぁ…」
ベッドの上で正座していた俺こと田無 准一は、横に倒れこむ。力が一気に抜けていくのを感じながら、少しでも早く下に行かなければ!!と頭の中で鳴り響いていた。
*
「いってきまーす!」
「はい、いってらっしゃい!」
母さんの前で元気良く登校する生徒を演じながら扉を閉める。
はぁ…
これから学校に行くのか…
俺は日曜日が嫌いだ。
別に学校が好きな訳ではない。むしろ逆とも言える。ただ、学校に行かなくて済むのは助かるのだが、朝起きたら瞬間に明日学校か…と、落胆するのがつらい。だから、俺は土曜日が一番好きだ。週休2日制ってのは短いと思うんだよ。
5日間も学校に行くんだから、せめて4日間は休ませてくれよ。
なんて、思いながらいつもの待ち合わせ場所に向かう。
*
「ったく、あいつ遅えなぁ…」
かれこれ、ここにつ着いてから10分は待ってるぞ。流石に遅い。
…………
「遅すぎだろッ‼」
何故こんなに遅いっ!?
いつも時間には余裕を持って来てるけど、流石にここまで待たされると遅刻しちまうぞ!?
タッタッタッ
「おはよっ、ごめんね!遅れちゃった‼てへっ///」
「てへじゃねぇよ!もう走ってかないと間に合わねぇよ‼」
「そうだね、それじゃ走って行こっか!」
「なっ、おい!待てよ‼」
「持てと言われて待つ悪党がどこにいるってさ!」
「お前はどこの悪党だよっ!」
こいつの名前は南谷 桜俺と同じ高校に通ってる同級生。元気な奴で楽しくて面白い奴なのだが、たまに行き過ぎな面もある。髪は短めで色はオレンジみたいな色。白のミニスカ制服を着ている。前に男子内で行った女子ルックス偏差値判定では67と高得点。俺はこいつと毎日登校している。その理由として、『あのさ、その…あんた私と一緒に登校しない?』と、入学当日の放課後、勘違いしかねないことを宣ったためだ。あ、ちなみに俺たちは高校1年生で、今は1学期の半ば。
一緒に登校することを誘われた時、俺は困惑した。普通戸惑うに決まってる。
かわいい奴が話しかけて来たから内心嬉しかったけど、名前も住所も何も知らない、それどころか初めて話した一言目がそれだったら誰でも疑うと思う。それが、かわいい子だったらなおさらに。でも、この御時世俺に断る権限はなく、にべもなく受け入れた。その名前も知らない子はやっとその時を自己紹介してくれた。俺も軽く自己紹介した後、桜は帰って行ってしまった。その時、桜が嬉しそうに見えたの俺の見間違いだったのかもしれない。受け入れたのはいいが、桜はすぐ帰ってしまったため相手の住所が分からなかった。同じ方向なのかそれとも逆方向なのか分かるはずもない。何人で?何時に?どこで?何も分からなかった。
だから、最初は冷やかしだと思って少しイラついてしまった。反面、残念に思ったのはその時だけの気の迷いだと信じたい。
次の日、登校途中に桜が道端に立っていた。状況の把握が追いつかなかったので、様子見として、ここで何してんの?と聞いたところ、『昨日、一緒に登校するって約束したでしょ。もしかして、冗談だった…?』なんて、悲しそうな顔をするので、ついつい何て話しかけたらいいか迷った上でのギャグと言い通そうとしたのは今にしてはいい思い出だ。まぁ、それで今のように一緒に登校することになったと。
ちなみに、どうしてその時桜がそこで待っていたのかは未だに不明だ。
今度さり気なく聞いてみようかな。
*
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
「ちょっと、疲れすぎ!さっ、早く入らないと遅刻するよ」
校門の前で息絶え絶えの俺をおいて校内に入っていく桜。てか、なんであんなに体力あるんだ?
それより、俺を置いてくな。お前の所為でこうなったんだぞ。
はぁっ、はぁっ、昔の桜かむばーく…
「階段が妙に長くきついぞ」
俺のクラスは4階建て校舎の4階にある。
やっと、3階まで来たもののあと1階上がるとかマジ勘弁…
「大丈夫?手を貸しましょうか?」
「えっ?あ、はい。」
目の前には見知らぬ女子がいた。優しく微笑んで手をこちらに伸ばしてくれている。この人は桜と同じくショートヘアだが、紫色をしている。眼鏡をかけていておっとりとした感じ。いかにも図書系女子って部類。
ついに俺も初対面の人にこんな目で見る奴に成り下がっちまったか…
初めて見た人に図書系女子なんてレッテルを貼るなんてどーかしてるんじゃないか、俺。
因みに、俺個人脳内ルックス偏差値によると63。
「よいしょっと!」
手を引いてもらい、最後の階段を上り切る。
「あの、ありがとうございました。」
「ううん。いいのよ、それじゃあ待たね。」
「はい、また今度。」
去り際に俺の横を通っていった。とてもいい匂いのする人だったな。
「なぁ~に、にやにやしてるのよ。」
「あっ、桜そこにいたのかよ。なら手伝ってくれてもよかっt」
話しながら振り向いた俺の先には阿修羅がいた。
よく知らないけど、あの顔が3つあるとかないとかの阿修羅。
「あの、桜さん?なにかありましたでしょうか?」
「問答無用で天誅よっ!」
「わっ、ちょっ、まっ、待てって!その棒降ろせって!つか、それ不審者撃退用のやつじゃねぇか!」
「待ちなさい‼男なら逃げないで正々堂々としなさいっ!」
「お、おいっ‼遅刻しちまうって!」
「あんたを粛清するまで許さないわ‼‼」
「俺が何したって…わっ‼危ねぇ!」
「待ちな…キャッ!」
足がもつれたのか、桜が俺に向かって倒れて来た。
「へ?うわっ、ちょ、おま、え…」
*
「ん..あれ?」
何か、胸に柔らかいものを感じる。それと同時に背中に痛みがある。とにかく、起き上がるか。
「ういしょっと」
起き上がるため、俺の上にある重みのあるものをどけようと手を柔らかいものに押し付けた時、その柔らかいものから「ん…」と、声が漏れた。訝しげに思って、よくそれを見てみると、見覚えのある制服。そういえば、桜が俺に向かって…というところまで思い出した時と同時に頬に痛みが走った。
「あんたっ‼な、なななにすんのよ!?わわわたしの…どうしてくれるのよ‼」
また、頬に痛みが走る。
「ちょと、待て!落ちつ、痛ッ‼」
「どうして、くれるのよ!」
「とりあえず、お前俺から降りろ!遅刻なんてごめんだぞ!」
キーンコーンカーンコーン
「あっ、なっちゃった。」
「なっちゃったじゃねーよ。もうしかたないか…とりあえず降りてくれよ」
「あっ、ごめん。」
俺の上からさっと降りる桜。先程とうってかわって、やけに素直だ。
「どうした?変なもの食ったか?」
「もしかしたら、食べたのかもしれない。ちょっと来て」
「へ?おい、ひっぱるなよ!」
「いいから、早く!」
俺を強く引っ張って前を歩く桜。その時に垣間見た桜の目は何か一つの決意を固めたかのように思えた。
階段を駆け上がり、屋上に出る。余談だが、最近の高校は屋上なんて普通鍵がかかっていて行けないようになっている。けど、何故だかこの学校は行けるようだ。
鍵のかかっていない屋上に出る。ここに来てようやく鈍感過ぎると言われたことのある俺でも、この後のシチュエーションは理解想像できた。
確証はないが、桜の持つ緊張した雰囲気から感じ取れる。思えば、それを連想させる節として急に俺みたいな奴と登下校を共にする異常を試みたり。そんなことする理由は、俺に気があるとしか考えられない。
「あのさっ」
「ん?なんだ?」
あくまでこれは仮定。
紳士に対応しようじゃないか。
「その…」
「私…」
俺は、覚悟を決める。
じっと、見据えていた桜の手が動く。きょうつけをだらんとした感じの格好だった桜の手と体が、強張っていく。そして、腕を組んで…
え?
腕を組んで、俺を見下してる!?
「私ね….
*
「おい、准一お前なんでこんな時間に来てんだよ。」
俺の数少ない男友達の遠坂 隆宏が少しやつれた俺を心配そうに(?)尋ねてきた。
こいつが女子ルックス偏差値判定の発案者。俺たちの学年の女子全員の偏差値を多角的に客観的に様々な人と話し合い決定しているようだ。とはいえ、男子なんて学年で40人もいないけど。あと、先生の偏差値も決まっているとか。
「あぁ、気にすんな。」
「まぁ、いいや。」
隠された事に明らかに顔を顰めた隆宏だったが、流石俺の友達、俺の事分かってくれてる。
「その、ありがとよ。」
「あぁん?なーに言ってんだよ!お前らしくもねぇなぁ」
「そう、だな。」
この心遣いはすごく嬉しいものだ。明らかに挙動不審なやつがいたら何があったか聞いてしまうのが人の性だ。相手の感情よりも自分の好奇心を優先させてしまう。だからこそ、今の俺には安心感を与えてくれる。
「そういや、次何校時目だ?」
「えーっと、4校時目..だったかな」
「何で曖昧なんだよ、まぁお前らしい。」
「褒め言葉として受け取っとくよ。」
からからと笑っている隆宏を横目に桜をチラッと見てみた。
………
やめときゃよかった…
すぐさま視線を隆宏に戻して、作り笑い。すぐに引きつってると分かったのか、怪訝な顔をしている。
桜と目が合った。ずっとこっちを見ている。瞬きすら億劫と言わんばかりに。潤んでた気がする。乾燥的な意味で。
もう一度見る勇気など微塵も持ち合わせてない俺は、なるべく平装を装って次の授業の準備に取りかかる。
って、次大蔵先生の授業だし…
大蔵 朋美先生。近代日本を専門とする主に日本史の先生。俺に宿題なんか課せたのもこの先生だ。
気になる偏差値は53。
女子高生相手に平均以上という大金星。年齢を考えるとすごいのではないかなと愚考。
「次大蔵先生だな~」
なんて、隆宏が言う。
それは、口に出さないけど嫌に思っている旨と同意して欲しいという旨を顔が雄弁に物語っている。
顔は口ほどに物を言うとはよく言ったもんだ。
っと、噂をすればなんとやら。特に同意せず、隆宏に戻るよう促す。前回の授業で怒られたのがまだ尾を引いてるのかすごすごと戻って行った。
「授業を始めますよ。」
*
イタイ。
とてもイタイ。
視線がイタイ。
しかし、振り返ることなんて出来やしない。ましてや、大蔵先生の授業中だ。今の俺は、窓から空を見上げて気を紛らわすことでどうにか耐えてる状態だ。しかし、いつまで続くことやら。大蔵先生に見つかるのが先か、圧迫感に負けて振り返ってしまうのが先か…
「ふぅ…」
ため息一つ。
それが聞かれたのか、大蔵先生から鋭い視線を感じる。しかし、名指しで呼ばれるほどでもなく、睨まれるだけですんだ。
なんて、情けない思考だ…
それでも、窓から自分に焦点を合わせない俺をついに問うことにしたらしい。田無さん、と呼んできた。ある程度の覚悟はしていたもののビクッと背を伸ばしてしまう。
「どうかしたんですか?何か考え事でも?」
「い、いえ。なんでもないです。」
キラッと大蔵先生のかけているメガネが日の光を嫌らしく反射させる。
「何かあるなら正直にちゃんと言いなさい。」
教室内のどこからかクスクスと笑う声が聞こえる。
あぁ、俺の平穏なスクールLIFEが…
「えっと、その、質問が御座いまして。」
へこへこしながら機嫌を損ねないよう努める。
「質問?言ってごらんなさい。」
「はい。実は、近代日本のことについてなのですが…」
クラス中の視線を一挙に俺に集まった。目の色が変わっている。俺はそれを意図的に知らないふりをしながら思ってもいないことをツラツラと述べる。
「第二次朝鮮戦争が終戦した後..の前にどうして第二次朝鮮戦争と言うのですか?1950年に起こった朝鮮戦争は休戦条約を結んだだけと聞いていますが?」
大蔵先生が喜々として答えようとする。ちょっとクラスの奴らを見てみると、危機を前にしているが如く脅えていた。大蔵先生は近代日本を専門としているため、この手の質問にはすぐに飛びつくと知っていた。自分の好きなジャンルについて話すのは楽しいからね。
「そうですね。貴方の言っている事はこれまで教えられていた歴史学上正しいです。ただ、1950年に始まった朝鮮戦争は一度終結しています。これは極秘裏に行われたもので、国家機密情報だったため一般市民はあまり知らないでしょう。なので、北朝鮮の奇襲が功を奏したのでしょうね。でも、現在ではすでにそういうことがあったと、公式的に発表されていますので、第二次という言い方になりますね。」
みんなのもうやめてくれと訴える顔を一瞥した後、俺の口が次の言葉を紡ぎだす。
「説明ありがとう御座います。それでは、その第二次朝鮮戦争終結後の日本の事なのですが、急成長を果たしますよね?人口も少なくなったなか、どうしてそこまで盛り返すことが出来たのでしょうか?」
どうしてこんなどうでもいいことを口から出てくるのだろうか?少し自嘲気味に俯く。それを全く意に介せず、大蔵先生は説明を始める。
「第二次朝鮮戦争終結後の国会男女比率は皆さんの知っている通り女性が圧倒的に高くなりましたよね?それが今回の答えなのです。つまり、汚職や自己利益のためだけに動く高官男性が政治の場から降りた事によって無駄金が一切なくなったのです。残ったのは国を憂いる女性たちの熱情だけ。この状態まで持ち込むためにも女尊男卑法の需要は多いにあったと言えますね。まさに、世紀の大改革です。政治を女性が取り仕切る事になった。国の急成長。政治を男性が取り仕切っている時は低迷するだけ。このことから導き出される答えは一つだけ。『女性は男性より有能』ということです。欲の違いが一番だと私は思いますが、他の面でも男性を上回っていたのでしょう。さて、話を最初に戻しますよ。貴方の質問は、どうして急成長したかですね?それは至極簡単。今先ほどまで説明していた男女の差から考える事が可能です…」
延々と語る先生。苦々しく聞いている生徒一同。時計の長い針はまだ1をさしていて、7になるまであと半周を残していた。時々俺を睨みつけてくるクラスの奴らその視線が妙に気持ちいいと思ってしまう俺。
…ただ、桜からの視線は別だった。
*
「私ね…
そこまで言った桜は、自分を警戒している俺に気付いたのか、ムッとした表情を全面に出した。
「あんた、何でそんなに警戒してるの?」
「そりゃ、屋上まで連れて来られて腕組まれたらカツアゲでもされるんじゃないかと。」
自分ではボケをかましたつもりだったんだが、表情が更に険しくなったところを見ると、そう受け取られなかったみたいだな…
これ、もしかして俺の思ってた事と違うのか?てっきり俺に気があるのかと思っていたんだが。もし、俺の想像と違うのであれば、ものすごーーく恥ずかしいんだが…うわ、俺恥ずかしい子だ…
急に顔が熱くなるのを肌に感じながら桜に目線を向けると…
って、何でそんなに顔真っ赤なんですっ!?
「さ、桜?大丈夫か?顔、赤くなってるけど…」
「えっ?そ、そそそんなわけないでしょ!この、ばかっ!」
そう言って、下を向く桜。あー、益々赤くなっていくのが目に見えて分かるんだが…何がどーした?も、もしかして、具合が悪いのか!?さっき転んだ時どこかぶつけたとか!?そういえば、変な物食べたかもしれないって言ってたな…それを言うためだけにわざわざにここに連れてきたのか?ってことは、よほど変な物食べたんだろうな…よし!頼られちゃあしょうがない。桜のために一肌脱いでやるぜ!
軽い自己解決と決心を心に秘めて桜に近づく。しかし、それに気付いてないのか、桜は下を向いたままだ。
桜の正面に立ち、優しく話しかけてみることにした。
「桜、辛いのか?安心しろ。俺が楽にしてやるからよ。」
俺がすぐ近くにいるのにやっと気付いたのか、ビクッとした後ボーッとした顔付きでこっちを眺める始めた。
俺、なんか変なこと言ったかな…?楽にしてやるからって言い回しが悪かったのか?というか、すっげぇ可愛いんだけどッ…!!
と、とりあえず言い直すか。
「大丈夫だ。お前を見捨てたりなんか絶対しないから。とりあえず、今どんな気分か言ってみろ。」
え?
と、聞き取れないくらい小さな声量でつぶやいた後、少し戸惑った様子をみせた。
一瞬、間があく。
なんとなく気まずい…
そう思った矢先、何かを心に決めた..いや、決心したのか、少し足踏みして、その紅潮した頬を俺の胸に押し当てて来た。
「さ、桜?お前、何やって…」
予測してなかった行動にあたふたする俺。
「胸が、胸が痛いの。」
胸だと!?
確かその部位には肝臓とか心臓とか脂肪とかあったはず!
…三つ目のやつは忘れてくれ。
「だ、大丈夫か!?すぐ保健室に行こう!さぁ、『ちょっと待って!』」
俺の話を遮るように少し大きめな声だった。
そして、俺の胸にうずくめていた顔を一直線に俺に向けた。
「私、私ね、あなた..いえ、准一。私、准一の事が好きなの!!!!」
「……………………へ?」
おとと、ついまぬけな声が出てしまった。
あーっと…
ん?
何て、言ったんだろうか…?
最初はこの可能性の事しか考えていなかったが、それを脳内で完全に否定した俺に混乱せずちゃんとした返答を求めようとする方が罪だろう。
かと言って、ずっと戸惑っている訳にもいかないし…でも、聞き間違いだったら..なんて弱気な部分も見え隠れしてるし…
聞き返す..か?
いや、そんなモラルのないこと出来ないっての!
……………
少し、落ち着こう。
うん。
まず、告白されたというのは前提としよう。で、俺が考えなくてはいけないことは、それに対する返答だ。まぁ、俺に断る権利なんて一切ないんだけどね…とりあえず、俺の気持ちはどうなのかってことだな。
俺は、どうなんだろう…
ふと、桜に視線を移して見る。俺の胸にしがみついたまま、俺の返答を待っている。顔は、見えない。どんな表情をしているのだろうか…
ちょっとしたSっ気にあてられた俺は、桜の肩にそっと手を当て、胸から離す。
桜は、そんな急な行動に戸惑ったのか、左を見てみたり、右を見てみたりあたふた。
ふと、俺は不思議に思った。
こんなに可愛い子が自分の事を好きだと言ってくれている。なのに、俺はそれをすんなり受け入れる事が出来ない…
何故なのだろうか…?
考えれば考えるほど深みにはまっていく…そんな、ネガティブな考えを排斥したくて、目の前であたふたしている桜を見て心を休める。
「いいよ、桜。俺も、お前の事好きだから。」
これは、テンプレート。こう言わなくてはいけない規定なのだ。
例え、本心ではそう思っていなくとも…
そんなことを露程も知らない桜は顔を輝かせる。ま、眩しい。
「ほんとうに!?ねぇ、ほんとうなの!?」
あの、平仮名で構成されてますよ?
俺をさらにきつく掴み、問い詰めるように聞いてくる。
「ああ。本当に。」
本当とは、いったい何かなんて哲学を脳内でおっ始めてしまうくらいにはリラックスしていた。俺とは対照に桜は。
「やったぁ!!」
ぎゅーっと。
いたた、帰宅部の俺にその締め付けはきついです。
今は、今は桜のことを好きだとは胸を張って言えない。でも、いつかいつの日にかは、心の底から好きだと言えるようにしよう。
〜桜の一日日記〜
やりました!
南谷桜ついにやってしまいましたっ!
准一に告白してしまいました!
もちろん、返事はOK!!
両思いなら、もっと早くから告白してればよかった。
思えば、あの時からずっと好きだったもんなぁ。
告白する時はやっぱり、緊張したなぁ。
思わず抱きついちゃったし。
でも、通じ合えて本当に良かった。
好きだよ、准一
これからも、ずーっと、ずーっと一緒にいようね!
追伸:
教室に戻る時に舞い上がり過ぎて足挫いちゃった。そのせいで戻るのが遅くなってごめんね、准一
1世紀ほど後の話ですが、科学技術は現在とさほど変わりません(え