騎士団のパン職人5
ローファンタジー短編部門に59位ランクインありがとうございます。本当にパン焼いてるだけなんですけど。
10月18日に瞬間風速16位になってました!ありがとうございます
騎士団の朝は早い。
朝食の準備に取り掛かるレティシアは更に早い。明け方から起きて、騎士団宿舎の隣にある女子寮にて身支度をして朝食の準備-パンを焼き始めるのだ。
この騎士団でパンを焼き始めてからそろそろ半年になる。
気になってきたのは、騎士さん達の肉に対する偏愛と野菜嫌いだ。
団長さんからして「にんじんが嫌い」など、子どものようなことを言い、私的に最高の出来であるキャロットラペまで副団長さんへ押し付けたと聞いた。
あのキャロットラペは、うちの貧乏子だくさん子爵家では考えられないほど贅沢に仕上がった。
レーズンの他、クルミも砕いて歯ごたえも良くしたのに!
我が家では子爵令息、令嬢である兄弟も屋敷の重要な働き手であった。
王都に来て、思う。うち、どれだけ貧乏なの。
そんな貧乏な子どもの仕事にクルミを採ってきて割るということもあったため、うちのキャロットラペには時々クルミが入ったが、レーズンは無かった。
先々代まであったらしいワインのためのブドウ畑はすっかり枯れ木の残骸である。
なんでも、先々代はとてもお人好しで騙されやすく、ワイン作りの職人を引き抜かれ、ブドウ畑の管理人さえ途絶えさせてしまったらしい。
お人好し気質は立派に父にも遺伝されている。即ち貧乏なまま。
よく、お母様がお嫁にいらしたなと兄と話していたところ、学園生時代に父と恋に落ち、同じく子爵家の三女だから、まあいいかと許されたと聞かされた。
まあいいかって…
パン焼きのお休みと学園のお休みが重なった時に、たまに会える兄姉以外は王都にきてからは家族には手紙のやり取りだけになっている。
私も学園へ行く年齢だが、その分を優秀な弟妹に託したい。
兄もそろそろ始まる文官登用試験の猛勉強で全く会えなくなり、姉が兄の近況を話してくれるだけになった。
兄はモテているらしい。が、いかんせん我が家は令嬢たる私が働いているくらいの貧乏なため、令嬢達からすれば、学生の時だけの憧れくらいだとのこと。
たまに兄にアタックする勇者もいるらしいが、勉強に励む兄からはすげなくされてしまうらしい。
プレゼント攻撃もあるらしいが、飴など長期保管がきく物以外、丁重にお断りしているとか。お兄様、頭を使うには糖分摂取はいいとして、実家に送ろうとして溜め込んでいるのではないだろうか。
今も姉経由でもらった飴が私の貴重なおやつになっている。
衣食住には充分な騎士団でのパン焼きのお仕事。お給料の半分は仕送りしているが、姉が言うには弟妹の学費ではなく、私の嫁ぐための持参金として貯められているのでは?とのこと。
昨夜のうちにパンを仕込み、二次発酵もおえ、黙々と手を動かしていると、朝食の仕込みを途中にしたダークさんとマルタさんから声をかけられた。
肉肉しい団員の食事改善について、昼食の支度の前に皆で相談しようとのこと。
団長さんに話しても、筋肉に必要なのは肉であると全く役に立っていないらしい。
団長さんは奥様から時々厳しく体調管理されているが、他の団員は朝昼晩と、この食堂で食べている。
ダークさんは具沢山スープで何とか野菜や肉以外のものをと工夫しているが、夕食については肉オンリーに酒という団員もいる。
パンも残って私達の賄いのパングラタンになったり、甘党お待ちかねのパンプディングとして「お好きな方はどうぞ」とデザートとは言いがたい大皿で取り放題パンの隣に配膳される始末だ。
パングラタンやプディング大好きなチャームさんやトムは、団員が肉を食べパンが残るのは大歓迎だから、ダークさんやマルタさんが帰宅した後、配膳口へ供する役割りの2人は野菜が残ろうがパンが残ろうが気にもしないのだ。
今朝はライ麦パンにしている。庶民で結成されている第五騎士団でも、黒々したボソボソのライ麦パンは不評なため、ライ麦粉の配合は半分以下に押さえている。
代わりにナッツやチーズを入れた私的には豪華なパン。
チーズを入れたパンの時、マルタさんはサラダやスクランブルエッグにいつも付けているチーズをやめ、ピクルスやキャロットラペを添えている。団長さんは食べないけどね!
カンパーニュにしたパンを冷まし、スライスしながら一口味見。うん、美味しい。
次はナッツとレーズンにしてチーズと一緒に食べてもらえるようにしよう。
スライスしても当たり外れのないように成形できるようになったのは、実家でも焼いていたおかげだ。
弟妹がスライスされた具無しパンに当たり、大泣きしたのだ。まだ半年なのに、こんなに実家の家族のことを考えてしまうなんてホームシックかな?
さて、「第一回 第五騎士団食事改善会議」が開かれた。
副団長のアラン様、ダークさん、マルタさん、私。団長は除外。
「ザワークラウトやピクルス、サラダや焼き野菜もだめとなると困りますね」マルタさんがため息をつく。
「私は時々ピザ祭りさえ行なってくれれば、何を出されても文句は言わず食べるつもりだ」
アラン様も除外にしないとダメな人じゃない!予算を管理し、団長決裁を受けるためのお飾りだとダークさんもため息ながら教えてくれた。
「スープに入れれば万事解決ではないか?豆は身体にいいしな」
ダークさんは豆を偏愛している。
この厨房にきて、世の中には、こんなに豆の種類があるのか驚いたくらいだ。
「グリーンピースをバターであえて添えるのはどうですか?」
私の言に3人が顔を見合わせる。
「肉に添えたが、グリーンピースだけ残した団員が多かったのだ」
アラン様がダークさんの顔色を見ながら言う。
ダークさんがグリーンピースへの愛を語るのを聞き流しながら、団長さんのお宅でいただいたグリーンピースの冷製スープを思い出した。
「冷製までは難しいかもしれませんが、茹でたグリーンピースとジャガイモを裏漉しして、ミルクでスープにするのはどうでしょうか」
アラン様が
「ビシソワーズみたいだな」と言い、ダークさんは「そんなお貴族様みたいなスープを皆がちまちまと飲むか?」と懐疑的だ。
マルタさんも以前、ブロッコリーを出しただけでダメだったことを思い出したと
「緑なだけでダメなんだよ」という。
なんでも、グリーンピースやブロッコリーを具沢山スープに入れただけでも大不評だったらしく、賄いでしばらく消費されたことがあったらしい。
「子どもですか」思わず言ってしまう。
「パンに入れたら食べるだろうか」
「今の話をお聞きする限り無理ですね」
美味しいってわかってもらえば食べてもらえる、しかし、見た目で拒否ってもう、団長命令で、良い子は残さず食べなさい!ではダメなんだろうか。ダメだ、団長がにんじん嫌いじゃん。
「細かく刻んだり、裏ごしして肉と合わせて肉団子にしましょうか。具沢山スープにグリーンピースが入っていない理由もわかりました。
煮込むと余計に口当たりが悪くなるものもありますものね」
「レティシアはパン焼き以外の料理も出来るのか?」
「できますよ。家ではパン以外の料理もやっていましたから。ただ、刻んだり裏ごしは、トムにやらせた方がいいと思います。トムは、包丁さばきが雑です。玉ねぎの刻みもひどいですよ。修行させましょう」
「裏ごしした野菜をパンに入れたら色で食べてもらえそうにないですね、第二回の会議にむけて考えてみます」
かくして、第一回は終了し、肉団子に隠された野菜をまんまと食べる団員を見ながら、ダークさん、マルタさんとほくそ笑む。一口大にして、見えなくしたのも勝因かな。
ブロッコリーについては呆気なく解決した。
私の休暇用の具沢山サンドイッチだ。
鶏肉、チーズ、硬めに茹でスライスしたブロッコリーを挟んだものが、団長が「美味い!」と大声でお代わりしたのだ。
つられて団員たちも
「美味い」
「この緑が入ってるが美味いな」と皆がモリモリ食べた。
「野菜にはサンドイッチ」がしばらく厨房の合言葉となった。




