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佐藤がいねんの走馬灯  作者: 藤村 託時


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1話.保育園

 私は佐藤がいねん。

 現在、83歳で余命1年の命だそうだ。

 そして、私は自分の人生を振り返るためのノート、”走馬灯ノート”を書くことにした。


 私の親は父親がひよこ判定師、母親が母親代行の仕事をしていた。

 ひよこ鑑定士ではなく、ひよこ判定師だ。

 ひよこ鑑定士は孵化したばかりのひよこのオスメスを判定する職業だが、ひよこ判定師は育ってきたひよこがニワトリになっているかどうかを判定する仕事らしい。

 ひよこ判定師がニワトリと判定した時点でニワトリ業者が買取に来ることになっていると父親は言っていた。

 今思えばニワトリ業者の存在も父親の仕事も本当にいるのか疑わしかったが、子供は親の言ったことを深く考えずに信じてしまうものだ。

 母親の仕事も特殊だった。母親は母親代行の仕事をしていた。母親代行という仕事も自分の母親以外から聞いたことがなかった。母親はシングルファザーの子供の授業参観などに参加していた。離婚済みの父親が母親の代行を頼むというなんだか闇の深い仕事だ。


 両親は基本的に仕事で帰りが遅いため、私は保育園に入っていた。

 これは保育園時代のなんでもない日常のワンシーンである。


「がいねん君、シール持ってないの?」

「持ってないよ」

「なんでシール買ってもらわないの?」

「いや、シールなんていらないから買ってもらわないんだよ」

「でも、みんなシール持ってるよ」

「だから何? みんながシール持ってるからって僕がシール持つ必要はないよね」

「がいねん君ってなんか変わってるよねー」

「シール持ってないだけで変わってることになるの? だとしたら、大人はみんな変わってることになるよね? だって、シールなんか持ってるの子供だけだし、大体の大人の人はシール持ってないからね」

「がいねん君あいかわらずめんどくせー! ロールちゃん、一緒に別のところでシール交換しようぜー」

「いいよーケンタ君。がいねん君なんか知らない」

「何が知らないのか全然わからないけどね。勝手にシール交換してればいいよ、僕は絵本でも読んで楽しんでるからさ」


 私は子供の頃、あまり周りに溶け込めなかった。シール自体は本当は少し欲しかった。ただ、なんとなく大した理由もなく強がっていたのだ。

 シール交換の輪に入れなかった私は一人で絵本を読むことにした。

 先ほどの会話を聞いていた保育士さんが私に声をかける。


「がいねん君、シール買ってもらえるようにお母さん、お父さんに私からお願いしてみようか?」

「は? 別に僕はそもそもシールがいらないんだってば。今も絵本読むの楽しんでるし、別に平気なんだってば」

「わかった。じゃあ、絵本読んであげようか」

「いや、いいよ。僕は一人で絵本に集中したいんだ。文字だって全部読めるし」

「そう⋯⋯じゃあ、何か困ったことあったら私のとこに来てね」

「大丈夫だよ。ワカコさんは他の子達のシール交換でも見守ってなよ」


 我ながら嫌な子供だったと思う。

 絵本のひらがなも全部が読めるわけではなかった。ら行がうろ覚えだった。

 そのため、絵本に書かれている内容も完全には理解できず、絵でなんとなく楽しむしかなかった。

 まぁ子供なんてなんとなく楽しめればそれで満足するので問題はなかったのだろう。


 お昼ご飯の時のことだ。


「がいねん君、ピーマン残してるー! ちゃんと食べなきゃダメなんだよー!」

「別にいいんだよ。嫌いな食べ物が一つや二つあってもね。だって、それ以外の食べ物を食べてれば健康でいられるのを知ってるからね」

「ワカコさん、がいねん君がこんなこと言ってるけどピーマン残していいの?」

「がいねん君、他の子はちゃんと食べてるんだからお野菜頑張って食べようよ」

「他の子ががんばってるとか僕には関係ないよね。あと、タツロウ君も食べてないよね。まずはタツロウ君に食べさせた方が良いんじゃない? まぁ、タツロウ君が食べたとしても僕が食べるかは分かんないけどね」

「がいねんはチビだけど、オレはでけーんだ。チビのお前はピーマン食え。オレはでけーから食わなくて良いんだ」

「別にピーマンを食ったとこで体が大きくなるわけじゃないよ。タツロウ君は体は大きいかもしれないけど、頭が悪いんだからやっぱりピーマン食べるべきだよ」

「なんだテメー! ぶっ飛ばす!」

「けんかだ! けんかだー! みんなケンカが始まったぞー!」

『生意気ながいねんなんてぶっ飛ばしてやれ!』

「暴力はダメだぞ! お母さんがダメって言ってた。おい来るなよ」


  私はタツロウに思いっきりぶん殴られた。ワカコさんが止めに入ったことで、追撃を食らうことはなかったが私はここで暴力への恐怖を思い知った。

 また、私は普通に周りの子供達から嫌われていたことをこの時はっきりと自覚した。

 その後、ピーマンを食べるようになった。

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