第一回 岳政囚われること、付けたり湯盈一行のこと (逃亡編①)
これは複数の歴史小説を読んでそれをもとに考えた作品ですが、決して史実ではありません。混合なさらないでください。また同じく登場人物においても実在の人物ではありません。(モデルとなる人物はいる場合がございます。)
また、これを書くもとになった小説とは別物であり、それが考えるもとになっているのであって決して二次創作物ではありません。
日本人と中国人の言葉が通じる、という独自の設定をご理解ください。
「みんな、逃げてくれよ・・・」
あれだけ宋の国に尽くし、敵国・金国と戦って大きな戦功を誇った「岳政」も今や囚われの身だ。
岳政らの勢力が拡大することを恐れ、彼の功績を嫉んだ宰相(役職名・総理大臣のようなもの)・「秦胡亥」によって都・臨安(南宋の首都)に誘き出され、謀反の濡れ衣を着せられて牢に入れられたのである。奸臣とはまさに彼のためにある言葉だ・・・
岳家軍の総帥である岳政を慕う者は多かった。しかしその仲間達も今や中国各地に散ってしまった。皆、岳政を助けたいのだが、兵の一人もなく、1人では行動を起こせずただ逃げ隠れるだけである。
なぜ秦胡亥は彼を殺さないのか?仇討ちを恐れているのである。
「あいつ(岳政)が生きている限り、元岳家軍の輩は奴を助けに来る。」そう信じ、元岳家軍の武将たちを都におびき寄せ、それから全員処刑したいと考えている。
「誰かを残して,捕らえた者だけを処刑すれば誰かが仇討ちに来る。」と・・・・・
そんな中、元岳家軍の幹部四人が行動を起こしたのである。牛邦・湯盈・張恭・王弘の4人だ。
「今は他の元岳家軍幹部にも会えない。兵の一人もいない。逃げるところもない。ならば外国に渡り、その力を借りて奸臣を討とうではないか。そして朝廷に戻り金の斡綴(金国軍の総帥・岳政のライバル)とまた戦おうではないか。」という学識のある湯盈の意見をとりいれてのことだ。
もっとも、他の粗野な3人は朝廷に戻るのを嫌がり、朝廷を馬鹿にし、調子に乗れば「朝廷を倒せばいい」とまで言っているような連中だが・・・
しかし、外国とはどこか?一番近いのは高麗だ。それとも西方の国々か?
「西方ならかなり遠いし、宋を西から東へ横断しないといけない。山も険しいから無事たどり着けるか分からんぜ。」と張恭。すると、
「高麗の国内は安定しているかしらんが、金国と国境を接してるから、行った後が何かと大変だ。」と王弘。
「日本だ!」湯盈が叫んだ。「今、日本は宋と同じく帝以外の卑しき者が政治を行っているらしい。もっとも日本は武家のようだが。」
「武人でも文人でも良いじゃねえか。大体、帝がなんだ?そんなに帝ってのは大切か?」と気を荒立てる牛邦をなだめて、湯盈は
「帝が愚かでその武家が正しければ武家に力を借りればよいし、逆なら帝を助けて恩を売り、力を借りればよい。まあ、日本に渡ろうではないか!」
「今の俺たちに味方を選ぶ余裕なんてねえじゃねえか。」と張恭が言うと、
「それもそうだ。」と王弘。しかし湯盈は
「いやいや、奸臣を討とうというのに、奸臣を助けるのはおかしいではないか。」と言う。
このような議論がが続いた後、彼らは日本に渡ることになり、海へと向かった。
しかし金もなく船もなく途方にくれていると、誰かが叫びながら近づいてくる。
「誰だ!」 四人は身構えた。
どうやら、官軍の服装に見える。そうであれば捕まるかもしれない。緊張が高まる。
このあと、彼らはどうなってしまうのか?それは次回のお楽しみ・・・