テンプレの婚約破棄のつもりだったんだよう
ええ婚約破棄です。
婚約破棄だったんです。
信じれ。
きらびやかに飾り付けられたホール。
王家主催の夜会。そこでお約束の展開が繰り広げられていた。
「【ジョアンナ・ジョージア】! これまでの数々の非道な行い、許しがたい! よって貴様との婚約を破棄する!」
いきなり宣言したのはこの国の第一王子(王太子でないところがミソ)。その言葉に声をかけられた方、ジョージア公爵家公女ジョアンナは、眉一つ動かすことなく応える。
「あらあら正気ですの殿下。……いえ」
すう、と彼女の目が細められる。
「正気ではございませんわね?」
見れば王子とその側近達は、目の色がおかしい……ってかあからさまににぐるぐると渦を巻いている。わかりやすっ! と観衆の誰かが口にしたが、背景なので誰も気にしていない。
それよりも、ジョアンナの視線は一点に注がれている。その視線は王子……ではなく、彼らに囲まれるように位置している人物に向けられていた。
ピンクブロンドの少女。見目麗しいその少女は、顔を伏せ、怯えているようにも見える。だがその口元に不敵な歪みがあることを、ジョアンナは見逃さなかった。
「なるほど、貴女ですのね。【ディア・オブライエン】」
ジョアンナもまた、不敵に笑む。その言葉に反応して、少女――男爵令嬢ディアは顔を上げる。その表情は挑戦的な、挑みかかるような物であった。
「流石、気づきましたか」
「ええ、貴女が殿下たちに【能力】を使っているのは明白。察知されないよう、ギリギリまで本気を隠していましたのね」
「その通り。私の【魅了】は精神干渉系の能力。出力を落として使っても、時間をかければこの通り。そして」
にぃ、とディアが牙を剥くように笑む。
「すでに貴女は私の射程距離にあります」
なんか話の流れ変わってきたわね。そんな周囲の空気をほっぽらかし、ディアは能力を発動させんとした。
この日、このため。王家にも多大なる影響力を持つ公女ジョアンナをも配下に収め、この国を牛耳る。そのために媚を売るふりをして能力を使い、王子を操ってこの場に参じた。ここに来てディアの思惑は九分九厘成ったと言っても良い。
だが。
ずん、と空気が重くなったような感覚。そしてディアの能力はかき消される!
威風堂々と構えたジョアンナの笑みが深まる。
「能力を使えるのが自分だけだと思って? 我が【支配】は文字通り場を支配する能力。貴女の能力を相殺することなど容易いこと」
同等以上の能力で押さえ込む。彼女は最初からそれができた。これまでそれをしなかったと言うことは。
「殿下達は囮! 私をこの場に引きずり出すためですか!」
操られた王子を利用し、ディアをこの場に来させるのが目的であった。衆目の中で決着を付けるために。ディアはそう判断し、そしてジョアンナは否定しない。
「今まで散々足をひっぱってくれたのですから、これくらいは役に立って貰わないと」
不敬どころではない。だがジョアンナは正しく己が支配者とばかりに堂々と構える。
能力による把握は無理。であるならば。
かっ、とヒールを鳴らして、ディアは踏み出した。
「あら、近づいてきますのね、このわたくしに。……あらあら」
「近づかなければ貴方に届かせるのは無理ですからね。近づかないというのは無理……無理無理」
気圧されている周囲を余所に、ディアは一歩一歩ジョアンナに向けて歩む。
なんですかこのゴゴゴゴゴとかドドドドドとかいう音ー! ってな雑音など耳に入った様子もなく、二人の距離は縮まり、そして。
かっ、と音を立て、ディアはジョアンナの眼前で立ち止まる。
一瞬の静寂。そして。
「あら!」
「無理!」
ごがんと轟音が響き、衝撃が奔った。
棒立ちだった王子と側近は吹っ飛ばされ、群衆が悲鳴を上げ、ステンドグラスにひびが入る。
目にも止まらぬ速度で拳がぶつかり合ったのだと周囲が気づく前に、2人の女は次なる行動に移った。
「あらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあらあら!」
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!」
連打! 連打!! 連打ッ!!! 目で追うことのできない無数の拳が嵐を巻き起こす。カーテンがちぎれ飛び窓ガラスは粉々に砕け、群衆は伏せて災厄が通り過ぎるのを待つしか無かった。
無限にも思えた連打の暴虐。しかしそれは、唐突に終わりを迎える。
「あらァ!」
「無理ィ!」
ひときわ大きな声と共に、これまでに無い衝撃が響く。2人の女は床を抉りながら後退し、動きを止めた。
再び静まりかえるホール。そして。
「……お見事」
静かなジョアンナの声。彼女の結い上げた銀髪がはらりとほどけ、左の頬に一筋の切り傷が生じ、微かに血が流れる。
それを見て取ったディアは、にぃ、と嗤い――
「……ごはっ」
突如、吐血する。
見れば彼女の左脇腹に、拳大の凹みがあった。
「カウンターを打つために……わざと隙を……っ!」
ぐらりと視界が歪む。まだ、まだだ。倒れるわけには……っ! ディアは踏ん張り、一歩踏み出して。
そこで意識が飛んだ。
立ったままで気絶。ディア・オブライエン、戦闘不能っ!
立ち往生(まだ生きてる)しているディアの前で、ジョアンナは警戒したままであったが、完全に意識が飛んでいると確認し、肩の力を抜く。
「その野心、そして実力。惜しいところまで来ていました」
やもすれば敗北していたかも知れぬ。だが、ジョアンナには負けぬ理由が存在していた。
「貴女の敗因は一つ。たった一つのシンプルな答えですわ」
ジョアンナは振り返り、歩き出す。そしてこぼれた髪をなで払って、呟くように告げた。
「貴女は私を怒らせた」
威風堂々と公女は去る。
その姿は正に支配者そのものであった。
【とぅびぃこんてぃにゅーど?】
「え~、っと?」
出待ちしていたもとい遅れて会場に姿を現した王は、目の前の光景に唖然とした表情を見せる。 ズタボロになったホール。床に伏せて「なまんだぶなまんだぶ」と念仏を唱え続けている参加者。漢立ちに立ち往生(死んでない)してる男爵令嬢。壁に刺さったりめり込んだりしてる王子with側近。
わけが分からない王は、疑問符を無数に浮かべ呟いた。
「何が、どうなってんの?」
そいつは俺が聞きたい。
おわれ。
これを読んだあなたはこう言う!
「ジ○ジ○じゃねーか!」と!
ご存じの方もそうでない方もチィーッス(軽)。緋松です。
なんか思いついたんで書いたんですけど、ホント何なんでしょうねこれ。なんで緋松の作品はすぐ婚約破棄どっか行ってしまうん? 業なんでしょうか。いや多分奇妙な冒険シリーズの処刑BGMを聞きまくってるからだと思われ。
まあまだ武装現象起こす来訪者令嬢とかしかるべき報いを与える魔令嬢とかじゃ無いだけマシか。そこは戦いのメイクをするゴージャスな令嬢じゃないのかよ。
そんな感じで今回はこんなところで。
続き? うちにはそんな物無いよ。
皆様のお暇が潰せて、くすりとでもお笑いいただけたら幸いです。




