僕たちの冒険はまだまだ始まらない。
ギルドを出たロイ達は意気揚々と町の守衛扉に向かった。
「いよいよだな!楽しみだぜ!初めての外界!」守衛扉に着くとトッドは大きな棍棒をバシバシと叩きながらフンっと鼻を鳴らした。
「発電機よし、バッテリーよし、ソーラーよし!食料よし!ハル!ガソリンは持ってるな?」グースは荷物を再確認した。
「うん!全部のタンク満タンだよー。」グースは背中にガソリンタンクを背負って満タンアピールをした。
「現状、コレが俺たちの全財産で命綱だからなぁ。しっかり皆で管理していこうぜ!」クレイグは荷物を見て感慨深そうに皆に声をかけた。それに対してリックは静かにウンウンと頷く。
「よし!それじゃ、出発だー!!」ロイは皆に出発の号令を掛けた…が。
「おい!お前たち!これから出発するのか?」
突然、守衛の一人がロイ達に声を掛けてきた。
「あ、レイヴ叔父さん!今日は叔父さんが守衛なんだな。」クレイグは守衛に返事をした。
クレイグにレイヴ叔父さんと呼ばれた人物はため息をつきながら続けた。
「お前ら、今何時だと思ってるんだ?」
「何時って…、えーと、何時だ?」トッドは意味もなく指を折りながら空を仰いだ。
「えーと、今は13時ちょいですね。」ロイはポケットから古ぼけた懐中時計を取り出して確認する。
「やれやれ、お前らまず何処に行くかはわかってんだよな?」
「はい!えーと、まずはフレデリックのギルドですね!」
「ギルドから地図貰ったろ?ちょっと見せてみろ。」
「あ、はい。どうぞ。」
「まず、ココ、国会議事堂ってとこが今俺たちがいるワシントンDCな。んで、こっから北西に進むとあるコレがフレデリックだ。な?こっからここまで歩いて行くよな?何時間かかると思ってる?」
「えーと、今日中には!」ロイは元気に答えた。
「アンポンタン!めちゃくちゃ頑張って13時間はかかるぞ!お前ら、ちゃんと外界のモンスターどもについては勉強したんだよな!?」
「…えへへ。」一同は顔を見合って皆照れ臭そうにした。
「はぁ~!お前らマジで死ぬぞ。ロイ!PC用意してちょっと待ってろ。」レイヴ叔父さんは守衛室に入り何やら持ってきた。
「このフラッシュに入ってる映像データを再生してみろ。」レイヴはフラッシュメモリをロイに手渡した。
「まっ、まさか!出発前の祝いデータですか!?」
「スカポンタン!モンスターの解説動画だよ!」
「ごめんなさい…。」ロイはレイヴに促されるまま動画を再生した。
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動画には世界中に蔓延したDTウィルスとその影響について過去の古い解説ニュース映像が映されていた。
そこで解説されていた事は以下の通りである。
・DTウィルス
人間の女性のみに空気感染する。男性は傷口や粘膜に直接触れた場合のみに感染する。
・DTウィルス感染者
ウィルスに感染した者は体組成が大きく改変される。その特徴として、肌が緑になり、排泄器官が退化。既知のゾンビとは違い、傷などはなく肌は健康的。日中は光合成をする為、日向に向かってノロノロと徘徊を行う。夜間は仲間を増やす為に人間、特に若い男を狙って活動を開始する。また、周囲の環境生物を捕食し、日中の光合成エネルギーを使って体内で別生物のモンスターに変え複製をする。複製されたモンスターは口から産み出され一体のシストゾンビを中心にハーレムを形成する。シストゾンビ自体は動きが緩慢で恐れる要素は少ない。
・モンスター
シストゾンビから産み出された未知の生物。それ自体に繁殖力は無い。環境生物に依存するためエリア毎にその姿は様々である。動きが遅いシストゾンビの代わりに狩りを行う。摂食行動はせず、完全に光合成エネルギーに頼って活動をするため、日中はほぼ動かない。また、自分のハーレム以外の生物全てに襲いかかるため、ハーレム毎に縄張りがあり、たまに縄張り争いをする事がある。旅をする上で最も注意するべき相手だ。
解説動画の中では街中を徘徊するゾンビたち。そして暗闇の中で襲われる人々。ゾンビの解剖などの映像が淡々と流れていた。
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映像を観終わった一同はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「わかっただろ?今から出発したら夜になってモンスターに囲まれて一発アウトだ。」
「…ということは?」
「当然今日は外出禁止だ。」レイヴは腕を組んで扉の前に仁王立ちした。
「な、なんだってぇ~!!」
全員その場にヘナヘナとへたり込んだ。
ロイ達の前途多難な旅はまだまだ始まることは無かった。