再生
瞬きを何度も繰り返し、
次に目をこすってみた。
見間違いだと思ったのだ。
幻覚でも見ているんじゃないかと、本気で疑った。
だが――
現実は、そんなケビンの予想をあっさりと裏切った。
「……嘘、だろ……」
目を見開く。
キツネの傷が、――治っていた。
ゆっくり、しかし確実に。
その体に刻まれた大きな裂傷が、少しずつ閉じていく。
光の粒のようなものが、傷口のまわりに集まり、漂っていた。
裂けた筋肉が繋がり、断ち切られた脂肪が修復されていく。
そして、皮膚がゆっくりと盛り上がりながら傷を覆い、
最終的には、まるで傷なんて最初からなかったかのような――完璧な肌が姿を見せた。
「な、なんだこれ……?」
思わず、呟いた。
(えっ、何が起きてるの!?
このキツネ、実はめっちゃ強い古代の霊獣とか!?
それとも、マンガに出てくる半妖みたいな存在!?
いや、まさか政府の極秘研究所から逃げ出した実験体!?
……アリゾナにそんな研究所あったっけ?)
(……ま、まさか……T-ウイルスに感染して、
超人的――いや、超キツネ的な再生能力を手に入れたとか!?)
頭の中が妄想で埋め尽くされる中――
ケビンはふと、重要なことに気づいた。
傷はたしかに回復していたが、
それでも、キツネの呼吸はどんどん荒くなっていく。
(……やばい。このままだと、いくら回復能力があっても……)
流血によるダメージが、限界に近づいていた。
「考えるのは後だっ!」
ケビンはすぐさまガーゼを取り出し、傷口に当てた。
強く押しつけすぎて悪化させないよう、絶妙な力加減で圧迫する。
続いて、包帯を使って胴体に巻きつける。
しっかり固定して、ガーゼがズレないように――
そして、これ以上の出血を食い止めるために。
治療を進めている間、何度かキツネが弱々しく鳴いた。
体を動かしたときや、傷口にうっかり力をかけてしまったとき――
そのたびに「くぅん……」という声が漏れ、ケビンはまるで自分が痛みを受けたかのように体を震わせた。
「ごめん……本当にごめん……」
小さな声で、何度も何度も謝る。
もちろん、返事が返ってくることはない。
だが、それでも言わずにはいられなかった。
そして――
何時間にも思える、心臓が止まりそうなくらい緊張した作業を終えたころ。
ようやく、ケビンの手による「応急処置」が形になった。
ふうっと息を吐き、額にかかる汗を手で拭う。
集中しすぎて、息をするのも忘れていた。
(素人にしては……まあまあ、かな?)
そう自分に言い聞かせながら、最後の確認を行う。
数枚のガーゼが、傷口の真上にしっかりと押さえられており、
包帯はそのガーゼを固定するように、丁度いい強さで体に巻かれている。
呼吸を妨げない程度の強さで、きつすぎず、ゆるすぎず――
少なくとも、血が滲んでくる様子もない。
(これで……少しは落ち着くはず)
もちろん、血が止まっている理由のひとつは、
“信じられない速度で傷が回復している”という点にあるかもしれない。
常識的に見れば、治るのは遅い方かもしれない。
だが、それでも――これまで彼が見てきたどんな動物よりも、回復が早かった。
(少年マンガのキャラじゃあるまいし……)
そう思いつつも、事実として、異常な再生能力がこのキツネに備わっていることは否定できない。
どのみち、止血と固定ができていれば、
この子の「謎の回復力」が本来の力を発揮するまでの時間稼ぎにはなる――はずだ。