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応急処置

ル・モンテ・アパートメントに猛スピードで戻ったケビンは、

階段を駆け上がり、ドアを開け、そして一直線に自分の部屋へと飛び込んだ。

どれだけ時間が残されているのか分からない。

ただ、シャツに広がった血の量を見る限り――猶予は少ない。

ベッドの上に、まだ意識の戻らないキツネをそっと寝かせると、

ケビンはすぐさま母親のバスルームへと向かった。

医療用品はすべてそこに保管されている。

床にしゃがみこみ、キャビネットの扉を開けて中を覗くと、

そこには、見覚えのある救急箱があった。

その両隣には、巨大なZzzquil(睡眠サプリ)のボトルと、

色とりどりの女性用用品がぎっしり詰まった箱。

(うん、見なかったことにしよう)

ケビンは救急箱をつかみ取り、再び廊下を全力疾走。

部屋に戻ると、ベッドの上に腰を下ろし、

すぐさま中身を確認した。

消毒液、コットン、ガーゼ、包帯――

必要なものは一通り揃っている。問題なし。

(よし……やるしかない)

ケビンは手早く物を取り出し、作業に取りかかる。

まずはコットンに消毒液を染み込ませる。

次に、キツネの体をそっと仰向けに転がして、

傷の位置を確認しようとする――

だが、はっきりした傷口は見えなかった。

血と汚れがあまりに広がりすぎていて、どこが本当の出血源なのか分からない。

(くそっ……このままじゃ……)

キツネの体に、アルコールを染み込ませたコットンをそっと押し当てる。

「……くぅっ……」

弱々しい鳴き声が、意識のないはずの口から漏れた。

(ごめん……)

ケビンは思わず謝る。

もちろん聞こえていないと分かってはいたが、

それでも、痛みを与えてしまったことに対する罪悪感は止められなかった。

消毒を進めていくうちに、血と汚れが徐々に落ちていく。

やがて、傷口の全貌が明らかになった――

(……っ!)

胃がひっくり返るような感覚。

思わず、息を呑んだ。

皮膚が裂け、肉がむき出しになっていた。

その断面はギザギザで、まるで引きちぎられたように荒れている。

その内側には、ピンク色に脈打つ筋肉。

鮮血に濡れ、見るだけで目を背けたくなるほどだった。

(……思い出すな……)

ケビンの脳裏に、過去の記憶が蘇った。

あれは、昔。

近所の偏屈なおじいさんが飼っていたピットブルを撫でようとして――

彼の手は、あっさりと噛みちぎられそうになった。

強靭な顎。鋭くて太い歯。

裂けた皮膚。破けた肉。

その時に受けた傷の縫合には、六針以上必要だった。

あれが、ケビンにとって唯一の「動物に噛まれた」経験だった。

今でも、その時の“記念”は残っている。

両手の親指の付け根――

薄く白く残る二本の傷跡が、日焼けした肌の上で浮かび上がっていた。

傷口の消毒を続けるうちに、ケビンはその深刻さに改めて気づかされた。

これは、ただの切り傷なんかじゃない。

脂肪層にまで達していて、筋肉もズタズタに裂かれている。

(これ……縫えば助かるレベルなのか?)

疑問が浮かぶ。

だが、仮に縫う必要があるとしても――

(俺、縫合なんてできないんだけど……)

完全にお手上げだった。

けれど、今できることはやるしかない。

それしか、この命を守る手段はないのだから。

やがて、傷口全体がある程度キレイになったと思える頃――

ケビンはようやく、次のステップに移る決心をした。

使用したコットンボールの数は八つ。

もっと使うと思っていたが、案外少なく済んだのは意外だった。

(……さて、包帯を――)

包帯を手に取り、巻き始めようとした――

そのときだった。

視界の端に、奇妙な“何か”が映り込んだ。

「……なんだ、今の……?」


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