うわあああキツネだ!(※ジョジョではありません)
昔のケビンは、よく野良犬や野生動物を家に連れて帰っていた。
そのたびに、アパートの管理人たちとの間で問題になった。
というのも、ここの物件は「ペット禁止」だったのだ。
極めつけは、ケビンがケガをしたボブキャット(オオヤマネコ)の子どもを保護したとき。
それを見た母親はさすがに堪忍袋の緒が切れ、「もう絶対に家に動物を持ち込まない」と約束させた。
――それ以来、彼は一度も動物をアパートに連れ込んでいない。
……ただし、数ヶ月前に拾った野良猫を除けば。
だって仕方ないじゃないか!あんなに可愛かったんだから!
(……帰ろう。自転車取って、そのまま帰ればいい)
母親はまた怒るだろう。
今度こそ本気で叱られるかもしれない。
(そうだ、あの声は無視しろ、ケビン。お前が騒ぎを起こすわけにはいかない)
……クゥン……
再び、か細い鳴き声が聞こえた。
ただの気のせいかもしれない――
だが、なぜかその声には「助けて」という意志が感じられた。
(ああああああああああ無理だぁぁぁぁ!!
絶対ケガしてるってあの声ぇぇぇ!!!)
――もう、決まりだ。
決意を固めたケビンは、声のする建物の角を駆け抜けた。
そして――そこで足を止めた。
彼の目が、まんまるに見開かれた。
「うわあああああキツネだぁぁぁ!!」
まるで大好きなアイドルにばったり遭遇したオタ女子のような悲鳴だった。
……もちろん、そこにアイドルなんていない。
代わりにいたのは――もっとクールな存在。
――赤い毛並みの、まさに「ザ・狐」。
ごみ収集用の大型コンテナのそばに、うずくまっていた。
自分の内なる“ファンガール”を解き放った直後、ケビンは慌てて口を押さえた。
(バカか、俺は!? 何叫んでんだよ!?
なんで小学生の女の子みたいな声出してんだ!?)
しかも、よりにもよって“狐”の前で……!
狐は基本的に人間嫌いだ。
臆病で、近づくとすぐに逃げるし、下手をすると噛まれる。
そんな相手に向かって奇声をあげるとか、アホの極みだ。
(落ち着け……まだだ、まだ終わってない)
幸いなことに、狐はまったく反応していなかった。
叫び声にも気づかず、その場にじっと横たわったままだ。
(……よし、ここからが勝負だ)
息を整え、ケビンは気配を殺した。
「俺は風……
影に溶ける……
闇夜を駆ける忍……」
――忍者モード、起動!
にんにんっ。
ケビンは、両手の指で謎の印――
どこか十字のような、でも忍術にも見えるようなポーズを作りながら、そろりそろりとキツネに近づいた。
(……それにしても、なんで街中にキツネが?)
アリゾナ州にキツネが生息しているのは知っている。
だが、基本的には砂漠地帯にいて、人間の住む場所からは遠く離れているはずだ。
最近は都市の拡張が進み、自然環境がどんどん破壊されている。
もしかしたら、このキツネも住処を追われて、こんなところまで来ざるを得なかったのかもしれない。
(……やるせないな)
そんなことを考えながら、ケビンは顔をしかめた。
野生動物の生息地が狭まっているというのに、それを気にする人間なんて、今ではほとんどいない。
そして――彼はついに、キツネの姿をはっきりと捉えた。
それは、とても小さな体だった。
腕に抱え込めそうなサイズで、まるで赤ん坊のようなキツネ。
ぺたんとした額に、ピンと立った三角の耳。
細くて少し上向きの口先。
そして、燃えるような赤い毛並み――まるで“情熱の炎”のようだった。
(赤狐……か)
ケビンはすぐに種を識別した。
アメリカで最も一般的なキツネ種、それがレッドフォックス(赤狐)だった。
……だが、フェニックス近郊に赤狐がいるなんて聞いたことがない。
本来の生息地はアリゾナ州の北東部――フラッグスタッフ周辺だったはずだ。
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