ごまかし
リリアンの尻尾が、ケビンの脚にふわりと触れた。
ケビンはなんとか震えを抑えようとした。
「謝らなくていいの。きっと、ホームスクールはもう終わりだから」
「……どういう意味だ?」
「……なんでもない」
ケビンは、リリアンが何か隠していると感じた。
彼がじっと見つめると、彼女は視線を逸らす。その様子に問い詰めたくなる衝動を覚えたが、思いとどまった。
誰にだって、話したくない秘密の一つや二つはある。無理に聞き出そうとするのは、無粋というものだ。
「じゃあ、君はなんでここに? 家族と一緒にバカンス中だったとか?」
「ふえっ!」
リリアンの短い悲鳴に、ケビンはびくっと身体を跳ねさせた。
彼女を見ると、ほんのり赤みが差した頬が、その王女様のような美貌を優しく彩っていた。
当然のように、ケビンも顔を赤くする。
「えっと、その……」
リリアンは口を開きかけて、すぐに黙り込み、顔をさらに真っ赤に染めていく。
そして次の瞬間には、彼女は小さく体を縮こませ、顔の下半分を――彼のシャツの中に――隠してしまった。
「そ、それは……えっと……」
リリアンがなかなか答えを返せず、言葉に詰まっているのを見て、ケビンは眉をひそめた。
そんなに答えづらい質問だっただろうか? 単純な問いかけだったはずだ。
かえって彼の好奇心は強くなった。
もしかしたら、リリアンの家族は別の超常的な存在に襲われたのかもしれない。
彼女のあのひどい怪我を思い出せば、それは十分にありえる。
キツネの妖怪が実在するなら、他の神話上の存在がいてもおかしくはない。
あるいは、超常現象を取り扱う軍事部隊に奇襲され、家族共々連れ去られそうになったとか。
その軍は彼女たちを実験材料にして、超人兵士の軍隊を作ろうとしていたとか……。
そして今、彼女はそのことを人間であるケビンに話せば、彼が軍に密告するかもしれないと心配しているのかもしれない。
――などというケビンの荒唐無稽な陰謀論はともかく、
今の状況にはどちらもしっくりこなかったし、そもそも、彼女がアニメのヒロインみたいに顔を真っ赤にしている理由にはならなかった。
数秒間、しどろもどろになっていたリリアンは、
結局その話題から逃げるように――話をそらした。
「ポテト、ちゃんと食べてみた?」
夕食のあと、ケビンは皿洗いをしていた。
それは必ずしも礼儀正しさからではなく、むしろ一時的(だと信じたい)に自分の部屋に住んでいる女の子にすべての家事を任せるのが、どうにも落ち着かなかったからだ。
リリアンは「私がやる」と言い張ったが、ケビンは頑として譲らなかった。
最終的に、彼女は彼の頑固さに根負けした。
不思議なことに、彼の理性を即座に粉砕できたであろう“色仕掛け”を使うという考えは、まったく浮かばなかったらしい。
テーブルの片付けと食器洗いを終えたケビンは、ソファにドサリと座り、ブラジルとインドのサッカーの試合を見始めた。
――いや、正確には「見ようとしていた」というべきだった。
というのも、視線のほとんどが、彼の隣にピッタリとくっついている女の子に奪われていたからだ。
夕食後、ケビンが「ソファに座ってて」と言った通り、リリアンは素直に従った。
だが、彼がテレビをつけてソファに座った途端、リリアンはするりと体を寄せてきて、ふたりの身体はほぼ密着状態になった。
まるでラブラブなカップルのように寄り添うふたり。
ケビンは、あの柔らかくて素晴らしい感触をなんとか忘れようと、必死にテレビ画面に集中しようとした。
……が、うまくいくはずもなかった。
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