料理の匂い
長い学校生活、そして同じくらい長く感じた陸上の練習を終えたケビンは、自転車で家路についた。
太陽はまだ沈んではいなかったが、空は徐々に夕暮れの色へと染まりつつある。
空の色が完全に失われるまで、もう時間の問題だった。
暗くなり始めた通りをペダルで進みながら、ケビンはずっと考えるのを避けていた問題に、ようやく思考を向けた。
――つまり、家に帰ったときに何が待っているのか、ということ。
何が起こっているか分からないが、彼は綺麗なアパートが待っていることを願っていた。
家の中がハリケーンレベルの大惨事になっていないことを、心の底から祈るしかない。
あと、できればあの女の子がちゃんと服を着ていることも祈りたい――
まあ、彼のシャツしか着るものがないってことを考えれば、“ちゃんと”の定義も怪しいが。
全裸の狐娘が部屋の中をうろついている光景を想像した瞬間、彼はぞっとした。
もしそんな状況だったら……いや、現実逃避したくなる。
これまで読んできた漫画のように、非現実的なハプニングが彼の部屋で起きていないことを、ケビンは切に願っていた。
本気で。
郵便受けで足を止めて確認すると、ケビン宛てに何通かの手紙と、何やら冊子のようなものが届いていた。
彼はそれらを手に取り、後で読むことに決めた。
請求書のたぐいは届いていないはずだ。母親はすべての支払いをオンラインで済ませていたから、その点に関しては安心だった。
午後6時が近づく頃、ようやく彼のアパートに到着した。
階段の前で、ケビンは自転車を持ち上げて上がる。
今日は特に疲れていた。コーチのデリテインがかなり厳しく練習を追い込んできたせいで、筋肉痛が筋肉痛を呼ぶほどだ。
階段を上りきった後、自転車を手すりにチェーンで固定して鍵をかけた。
それから部屋のドアを開ける。中に入るとき、彼の足取りは慎重だった。
靴を脱いで室内に入った瞬間、ケビンはまず最初に気づいた。
何もおかしいことが起こっていない、と。
裸の狐娘が飛び回っているわけでもなければ、災害の真っ只中というわけでもなく、
死後の世界からよみがえったゾンビが、彼の精子を求めてさまよっているわけでもない――
……聞くな。いや、本当に聞かないでくれ。知らない方が幸せだ。
彼が気づいた二つ目のこと――それは、空気中に漂うこの上なく美味しそうな匂いだった。
深く息を吸い込んで、ケビンはその正体を探ろうとした。
匂いからして明らかに食べ物だ。しかも、とびきり美味しそうな食べ物。
ケビンは自分をそこそこ料理上手だと思っていたが、今部屋に漂っているこの香りは、自分の料理が足元にも及ばないレベルだと教えてくれていた。
匂いに誘われるまま、ケビンはキッチンへと足を進めた。
そこには夕食の準備をしているリリアンの姿があった。
驚きはしたが、同時に納得もしていた。
今朝、彼女は朝食を作ってくれたのだから、夕食を作っていても不思議ではない。
数秒間、ケビンは無言で彼女の姿を眺めていた。
リリアンは鼻歌を歌いながら、使ったまな板や包丁、ボウルなどを洗っていた。
今朝と同じく、彼女は彼のTシャツを一枚着ているだけだった。
その背中からは、ふさふさした尻尾が一本、ゆらゆらと揺れていた。
ある意味では、これでも「それなりに服を着ている」ことに安心すべきなのかもしれない。
……が、問題は別のところにあった。
Tシャツの裾から覗く彼女の丸出しのヒップ――そっちに視線が吸い寄せられそうになるのを、必死に堪える羽目になったのだ。
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