命の恩人リンジー
ケビンは何も言えなかった――というか、言葉が出なかった。
「それで?遅刻した理由って何?」
「えっと……」
遅刻の理由?……ああ!そうだ!
「き、昨日……ケガしたキツネを見つけてさ……ちょっと手間取って……」
「キツネ?」
リンジーは目を輝かせた。「キツネを家に連れて帰ったの?アパートって動物飼っちゃダメなんじゃなかったっけ?」
「そ、そうなんだよね。」
ケビンは肩をすぼめながら、ルール違反を思い出して気まずそうに答えた。
「だから、外から見えないように色々隠したりしてて…それで遅れたんだ。」
「なるほどね。」
リンジーは頷いた。「あんた、小さい頃から動物大好きだったもんね。」
ケビンは顔を伏せ、真っ赤になった頬を隠そうとした。
そんな彼を見て、リンジーはにっこりと笑った。
「とにかく、はいこれ。」
彼女はスパイラルノートを差し出してきた。
「今日の講義ノート。書き写したら返してくれればいいから。」
ケビンは震える手でそっとそのノートに触れた。
胸の中では心臓が激しく鼓動を打ち、
胃の中には無数の蝶が羽ばたいているようだった。
まるで宝物を受け取るかのように、ケビンは大切そうにノートを受け取った。
「ありがと。」ケビンは小さな声で言った。「マジで命の恩人だよ。」
「知ってる。」
リンジーの小さな自信満々なニヤリとした笑顔は、なぜか彼女の魅力をさらに引き立てた。
ケビンは危うくクラっときそうになったが、男としての誇りでどうにか踏みとどまった。ほんのギリギリで。
教室内はほとんど無音だった。
紙に鉛筆が走る音と、たまに聞こえる咳払いだけが、張り詰めた静寂をかき乱していた。
教師のヴィス先生はデスクの後ろから鋭い目つきで生徒たちを監視しており、
会話やメモのやり取りが見つかれば、即座に注意され、下手をすれば居残りという罰が待っていた。
スマホを出していたら、それも授業が終わるまで没収だ。
ケビンは黙々と、リンジーが書いてくれたノートを写していった。
彼女の字はとてもきれいで整っていて、写しやすかった。
彼女はノートを取るのが上手い。これは事実だ。
すべて書き終えて課題に取り掛かる頃、
ケビンの頭の中では、アパートに居候しているキツネ少女のことがよぎっていた。
今、何してるんだろう?
いや、むしろ――やらかしてなければいいんだけど。
帰ったら部屋がめちゃくちゃ――なんてことは勘弁してほしい。
マジで。
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