ケビンの仕事
シャワーを浴び、服を着替えたケビンは、朝食に卵とトースト、そして牛乳を用意した。
食べ終わると、食器をシンクに置き、歯を磨く。
このルーティンを終えるころには、完全に目も覚め、エンジン全開だ。
母親と二人で暮らしているアパートのドアを開ける。
……といっても、母親は今、仕事の関係でフランスに出張中なので、現在は一人暮らし状態だった。
玄関を出たケビンはドアに鍵をかけ、自転車のもとへ向かった。
それは、ちょっといい感じのクルーザータイプ。
購入時はけっこうな金額が飛んでいったが、ケビンにとっては必要な投資だった。
仕事中に一番重要なのは「快適さ」。
尻が痛くなって感覚を失うようなサドルには、もう二度と乗りたくなかった。
チェーンロックを外し、自転車を手にして階段を下りる。
そして、そのまま「ル・モンテ・アパートメント」を抜けて大通りへ――。
自転車レーンの左側を走りながら、ケビンは思った。
「朝っぱらから、なんでこんなに暑いんだよ……!」
アリゾナという州は、アメリカ国内でもトップクラスに暑い。
特に夏の時期は、まさに地獄。
……いや、正確には、もうすぐ夏も終わり。
あと二週間もしないうちに、九月になるのだが――
ケビンは、そういう細かいことを気にしないタイプだった。
暑けりゃ文句を言う。それがケビン・スウィフトという男である。
ぶつぶつと頭の中で文句を垂れながら、ケビンは自転車を漕ぎ続け、目的地――
自分の「仕事場」へと向かった。
ケビンの仕事は、朝刊を配達することだった。
ルートに沿って各家庭に新聞を届ける――シンプルだが、立派な仕事だ。
彼は母親に金銭面で頼るのが好きではなかった。
特に、母は仕事でほとんど家にいないこともあり、自立心は強かった。
この新聞配達を始めたのは、二年前の夏。
中学二年の時に始めて、それ以来ずっと続けている。
高校に進学してからも、やめようとは思わなかった。
もっとも、もうすぐ夏も終わりなので、今は週に一度――日曜日の朝だけの配達になっている。
平日は学校、宿題、部活と時間に余裕がない。
その分、収入は減るが、それでも何もないよりはマシだった。
新聞社の建物は、特に目立つようなものではない。
灰色のレンガでできた平屋建ての長方形――
見た目も地味で、正直、退屈な印象しかなかった。
だが、それでも「中にいるマネージャーよりはマシだ」とケビンは思っている。
あの管理人は、建物と同じく面白みがなく、しかも性格が最悪。
幸いなことに、この時間帯にはまだ出勤していない。
……それが唯一の救いといえば救いだが、正直、それですらありがたみが薄い。
(あのクソ上司は、朝からぬくぬく寝てられていいよな……
こっちはこのクソ暑さの中、自転車で走り回ってるってのに!)
楽しんでもらえたら、評価やブクマしてくれると嬉しいです!