ケビン・スウィフト
アリゾナ州フェニックスにある「ル・モンテ・アパートメント」――そこがスウィフト家の住まいだった。
派手さはないが、住み心地のいい場所だった。
芝生は青々と手入れされ、清潔感のあるプールが二つ。
建物はすべて白いスタッコ壁に赤い屋根のモダンな造りで、全体的に清潔で落ち着いた雰囲気を保っている。
この街には、もっとひどい環境のアパートも山ほどあることを考えれば、十分すぎるほど恵まれていた。
スウィフト家のアパートは、そこそこな広さの2LDK。
二つの寝室に二つのバスルーム。中規模のキッチンはリビングと繋がっており、主寝室の近くには小さな書斎もある。
広くはないが、必要なものは全て揃っており、住んでいる人の愛情が感じられる、そんな家庭的な空間だった。
壁には大小さまざまな額縁に収められた写真が飾られていた。
写っているのは、二十代にしか見えない若々しく美しい女性と、年々成長していく一人の少年。
ある写真では、赤ちゃんだった彼はまるで丸々としたぷにぷにのボールのよう。
別の写真では、産毛のような髪がふわふわと頭に生えた一歳ほどの幼児。
さらに別の一枚では、サッカーボールを手に満面の笑みを浮かべた少年が写っており、その隣には、少年のようなショートカットの金髪少女が同じく笑顔で並んでいた。
成長していく少年と、年齢を感じさせない若々しい女性――
写真のすべてに写っていたのは、その二人だった。
言うまでもなく、女性は少年の母親だ。
アパートの中は静かで、今はほとんど人気がない。
ただ一つ、寝室を除いては――
ピッ!
ピッ!
ピッ!
ピ――ガシャッ!
――いや、少なくとも目覚まし時計が鳴るまでは、静かだった。
素晴らしい夢の真っ只中だったのに、台無しだ。
あと10秒…たった10秒遅れてくれれば…!
もう少しで、リンジーとのロマンチックなキスができたのに!
寝ぼけ眼のまま、ベッドの上で体を起こしたケビン・スウィフトは、
壊れかけた目覚まし時計から手をどかし、眠そうな青い瞳で瞬きを繰り返した。
ぼさぼさのミディアムブロンドの髪を指でかき上げ、目元にかかった前髪を払いのける。
少しずつ覚醒していく意識の中で、彼はぼんやりと部屋を見回した。
そこは、ごく普通の十五歳の少年の部屋だった。
壁には、好きなバンドやスポーツチームのポスターが並び、
その中にはアニメや漫画のキャラクター――
ララ・サタリン・デビルーク、エルザ・スカーレット、スパイク・スピーゲル、トレイン・ハートネットなど――も混ざっていた。
部屋の一角には、大きな本棚が壁際に置かれており、上から下までぎっしりとお気に入りのアニメや漫画が並んでいた。
意外なことに、部屋のどこにもビキニモデルやセクシー女優、半裸の女性のポスターはなかった。
その理由は、ケビンが“女性”に対して生まれつき奥手だからだ。
――端的に言えば、彼は「女子と話せない病」にかかっていた。
女子が話しかけてくると、いつも固まってしまい、口は動かず、脳は停止。
何も考えられなくなるのだ。
この厄介な症状のせいで、何年も前から知っているリンジー・ダイアンを、いまだにデートに誘えずにいた。
……そう考えると、自分が女子と話せないのは、
「アニメのラブコメを見すぎたせい」なんじゃないか――
ケビンは本気でそう思っていた。
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