朝ごはんと不思議な狐
ケビンが目を覚ましたのは、胸の上に感じた小さな重みがきっかけだった。
まばたきを数度繰り返しながら、まだ再起動中の脳を動かし、ゆっくりと視線を下げる。
すると、そこには昨夜と同じく、小さな狐がまるくなって眠っていた。
喉からは低く微かな唸り声――いや、まるで人間の寝息のような音が漏れている。
「……はぁ」
ため息まじりに頭を枕へと戻し、左にある目覚まし時計へと目をやる。
壊れかけているそれは、かろうじて 午前五時四十五分 を表示していた。
平日の朝としてはやや早い。だが、二度寝するには微妙に遅すぎる、そんな時間帯。
「めんどくせぇ……」
しばらくそのまま、何も考えずにボーッとしていたケビンだったが、やがて重い腰を上げることにした。
狐を胸にそっと抱きかかえ、体を起こすと、さっきまで自分が使っていた低反発の枕の上に彼女を優しく移動させた。
そのとき――
「……ん?」
ケビンの目に、ほんの一瞬、狐の顔に浮かんだ“人間のような不機嫌そうな表情”が見えた……気がした。
だが、それもすぐに消え、狐はそのまま枕に顔を埋めて気持ちよさそうに丸まった。
「見間違い……だよな。狐に人間みたいな顔芸ができるわけ……」
自分にそう言い聞かせ、ケビンは肩をすくめて部屋を後にした。
ケビンにとって月曜日の朝は、胸の上に狐が乗っていたことを除けば、いつもと変わらない一日の始まりだった。
シャワーを浴び、青いジーンズとバンドTシャツに着替えると、キッチンへと向かい、簡単な朝食――ベーコンとスクランブルエッグ、そしてオレンジジュースを用意した。
コンロの上に並ぶ二つのフライパン。
片方では卵をかき混ぜ、もう片方ではベーコンがじゅうじゅうと音を立てながら焼かれていく。
朝にしては悪くない香りが部屋に漂っていた。
「……キュッ!」
卵をかき混ぜながら首を傾けると、あの狐が――またしても――テーブルの上にちょこんと座って、こちらをじっと見つめていた。
しかも、今日の視線はなんだか妙に……いや、異様に……鋭い。
(なんだろう、この視線……昨日よりもヤバい感じがするんだけど)
その目に込められた感情が何かは分からなかったが、本能的に“安心できないもの”を感じたケビンは、首を横に振って気を取り直す。
「おはよう」
なんだか自分が動物と会話するのが日常になりつつあることに気づき、ケビンは心の中で自分を「変なやつ」認定した。
(他にも動物とこんな風に会話してる人、いるのか……? いや、いないよな)
「腹減ってるか?」
「キュッ!」
やっぱり変わってるのは、こいつだ。




