えっ、君、俺の言葉わかるの?!
「さてと……何があったかな……」
ケビンは冷蔵庫の中を覗き込みながら、眉をひそめた。
「確か、狐って雑食だったはず……ってことは、やっぱりお肉が必要だよな」
数日前に買っておいたステーキ用の肉が目に留まる。
まさかこんなに早く使うことになるとは思っていなかったが、
今の状況では、他に選択肢はなかった。肉はそれしかないし、そろそろ買い出しにも行かないと。
ステーキをカウンターに置き、ケビンは振り返って狐を見た。
狐はというと、彼の動きをじっと見つめていた。
「問題は……このまま生で食べる? それとも、焼いてあげたほうがいい?」
――まあ、狐だし、生で食べるのが普通だよな、とは思ったが……
「……え?」
驚きの声が漏れた。
狐がぴょんとカウンターから降り、コンロの横に置かれたポータブルグリルの前まで歩いていったのだ。
前足でグリルを指し、次にステーキを指し、そして再びグリルを指す――
「ってことは……焼いて欲しいってこと?」
「きゅん!」
元気な鳴き声と、小さなうなずき。
「……お前、俺の言葉わかってるのか?」
「きゅん!」
そして、もう一度うなずいた。
ケビンは固まった。
「……マジで!?」
狐は、まるで「当たり前でしょ?」と言いたげに、尻尾をふわりと揺らした。
「はぁ?」
頭をぽりぽりとかきながら、ケビンは状況を整理しようとした。
まさかとは思うが、やっぱり政府の陰謀ってやつか?
遺伝子操作か何かで、人間……いや、せめて人並みの知性を持たせた実験動物とか?
いや、でもそれにしては可愛すぎる――
……いやいや、考えすぎか。
何にせよ、この狐が彼の言葉を理解しているという事実は、
とりあえず受け入れることにした。
深く考えたら負けだ。精神衛生上、その方がきっと安全だ。
「ふぅ……」
気を取り直して、ケビンは料理に集中した。
十代の男子としては珍しく、彼はそこそこ料理ができる。
母親がほとんど家にいないため、自炊スキルを習得せざるを得なかったのだ。
まあ、簡単な料理しかできないとはいえ、インスタントばかりの生活よりはずっとマシ。
ステーキには塩をひとつまみ、コショウを多めにふりかけ、
最後にオリーブオイルで香ばしく焼く。
付け合わせに冷蔵庫の野菜を取り出し、電子レンジで蒸しておいた。
――約二十分後。
「はい、できた」
ケビンは二枚の皿にステーキを盛り、それぞれテーブルの上に並べた。
「ミディアムレアのステーキ、二人分っと」
フォークとナイフを取りに振り返ったそのとき――
彼はすでに椅子に飛び乗り、テーブルに前足を乗せている狐の姿を見て、目を丸くした。
「……あれ? もう自分で来たのか」
狐は、まるで得意げに尻尾をふりふりと揺らしていた。




