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彼は気づかなかった……
ここまで見落としてたなんて、
本当にパニック状態だったのだろう。
もちろん、キツネから返事が返ってくることはない。
ケビンはそのまま包帯を外し終えると、
新しいコットンと消毒液を取り出し、再び血と汚れを拭き取った。
前回と同じく、傷は驚くほど順調に回復していた。
――いや、むしろ回復速度が上がっている?
さっきまでは、ゆっくりと“再生している感”があった。
だが今は、目に見える速度で傷口が塞がっていく。
ギザギザだった裂傷は、もはや一本の細い赤い線へと変わっていた。
このままいけば、傷跡すら残らないだろう。
(……もう大丈夫そうだな)
そう判断したケビンは、気分転換のために外に出ることにした。
新聞配達を終えてから、あまりにもいろんなことが起こりすぎた。
頭の中はまだ整理がついていない。
こんな時、自分がいつも向かう場所がある。
部屋を出てドアを閉め、
玄関に鍵をかける。
そして――
彼は、
キツネが顔を上げ、自分の背中を見送っていたことに、
まったく気づかなかった。
――残念ながら。
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