こよりアルバイト
ちゅんちゅん
朝だ。ゆっくりと意識が覚醒していく。それとともに昨夜の自分がやらかしたことを思い出す。
「こよりくんとキスしちゃった」
わたしは百合崎百合。男だった時の彼氏と結婚の約束をしたけれど、彼が彼女に性転換して約束は無効になった。
彼女と拳法道場で再会。好きな気持ちが抑えられず、拳法の乱取り中に寝技で抑え込んでキスをした。
でも嬉しい。こよりくんの本質もわたしへの気持ちも何一つ変わっていなかった。胸がキュンキュンしちゃう。
ふとこの先の未来に想いを馳せる。女同士で生きていく。それでも後悔はなかった。
本当に欲しいものを手に入れたのだから。
「こよりくん。わたしがあなたを幸せにするよ」
・・・・・・・ちゅんちゅん・・・・・・・
朝か。またスマホのアラームよりも先に起きてしまった。
ボクは神人こより。中学三年生の性転換者。生物学的には女性だ。
ゆっくりと意識が覚醒していく。それとともに昨夜の自分に起きたことを思い出す。
帰宅してお風呂に入っていたら姉がまた乱入してきた。断ったのに「ちゃんと洗えていない」と姉の手で全身を洗われた。スポンジじゃない。石鹸を塗りたくった手のひらであらゆるところをまさぐられた。背中なんて胸で直接洗われた。
姉には内緒だけど何度も達していた。感じてはいけないと思うほど感じてしまっていた。
同じ女で姉なのに。ドキドキしてはいけないのに。男の時は童貞なボク。あのきれいな姉の二つのふくらみが忘れられない。
ぶるぶるぶる。頭をふる。いかん忘れなければ。
「あん」
「!!」
急速に意識が覚醒した。ボクの顔の五センチ先に姉の豊かなふくらみとピンク色の蕾があった。
夜のうちにボクの布団に忍び込んだのだろう。姉は全裸で寝ていた。
「おぱっ」
「ここがわたしの仕事場よ」
姉の神人おりがみに連れられて到着したのは都内にある撮影スタジオだった。
姉はその美貌を活かしてティーン向けファッション雑誌"ポップティーン"のモデルのアルバイトをしていた。
読者のあいだでは「氷の女王」「ゴッドイーター」と呼ばれているらしい。決して笑わないからだそうだ。ゴッドイーターは知らないけれど。
まさか姉が同じ読者モデルの女性たちを喰いまくってるから「神喰い(ゴッドイーター)」と呼ばれてるとは夢にも思わないボクがいた。
「アルバイトしたい」
妹から相談された。理由は女はお金がかかるから。化粧に洋服。拳法道場の道着だって安いものではない。
「せめて自分の物は自分で買いたい」
よい心がけだ。夜のお相手をしてくれるのなら、わたしが養ってあげてもいいのに。
駄目、おりがみ。まだ早い。妹の心も体も完全に堕とすまで焦りは禁物。昨夜もお風呂で三度も達したくせに妹の心は堕ちていなかった。
なかなかしぶとい。ならば搦手を使う。側面から攻めてみよう。
「わたしと同じ仕事をしてみる?」
「モデル?ボクにできるかなぁ」
「こよりに無理なら誰にもできないわよ」
妹は天使だ。サラサラした栗色の髪。芸能人クラスのかわいくて小さな顔。胸は成長途上だけど。足もスラッとして長い。モデルどころか、すぐにアイドルデビューできるだろう。
「おりがみさん。おはようございます」
「編集さん。おはようございます」
「妹さん。本当に可愛いわね」
「ありがとうございます。自慢の妹なんですよ」
姉がニッコリと笑う。編集さんが信じられないものを見た顔をした。
「すぐにカメラテストに入ります!」
「カメラさん!準備を急いで!!」
「三十秒で用意しな!」
バタバタバタ。急に現場が慌ただしくなる。
「こっちにいらっしゃい。メイクしてあげる」
「ありがとう。お姉ちゃん」
「姉妹じゃない。遠慮なんてしないの」
撮影が開始する。今回のテーマは姉と妹のお出かけデート。
カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ
「おりがみさんが笑ってる」
「なんだ、この子」
「まるで体操の選手だ」
「体幹がしっかりしてるのよ」
「だからポーズが決まる」
「見て、おりがみさんの顔」
「メス顔じゃないか」
「とんでもない逸材だぞ」
「売れる。この子は絶対に売れる」
「ポップティーンの天使だ・・・」
二時間ほどの撮影を終える。なんと三万円もアルバイト代をいただいてしまった。さらに撮影に使用した洋服を三着もプレゼントしてもらえた。私服が姉のお下がりばかりだったので本当に助かった。
後日談だけど、翌月に発売されたポップティーンは即日完売。店頭から姿を消した。原因は氷の女王のメス顔と新人モデルの天使だったことは言うまでもない。ポップティーン初の重版がかかった。