こよりディナーバイキング
ザザッ
「対象は熱海ホテルに入った。送れ」
「エンペラー了解。対象の隣の部屋を至急確保しろ。送れ」
「スターフェスティバル了解。ちなみに対象ほかメンバーは三名。コードネーム般若、野獣、神喰い、送れ」
「エンペラー了解。盗聴の準備も忘れるな。送れ」
「ラジャー。通信終わる」
ザザッ
やはり家族旅行だったか。しかし般若と野獣の二人も同行しているのが気にいらない。これは本当に家族旅行なのだろうか。
その予感は的中した。彼らはチェックインするなり四人で部屋付きの露天風呂で不埒な行為に及んだ。
盗聴班が仕事をする必要もなかった。露天風呂なので、隣の部屋の露天風呂にいるわたしたちにはすべて丸聞こえだった。
今も対象の声が耳から離れない。いやっ、やめて、もうだめ、エトセトラエトセトラ。
あの三人は対象を性的に虐待している。辱めている。あろうことか一人は恋人。一人は実の姉だというのに。
わたしたちが対象を助け出すしかない。お救いするしかない。
幸いわたしたちには金と権力がある。待っていてください、こより様。
あなたはわたしたちがお守りいたします。
ちなみにこの二人は恋愛経験が一切ない。そのため、恋人同士の「いや」や「やめて」が正反対の意味をもつ場合もあることを知らなかったのは言うまでもない。
「「あら、こより様」」
ここは熱海ホテル。午後六時からのディナーバイキング会場。ボクは美味しそうな料理のどれを選ぼうか迷っているところだった。
ボクは神人こより。とつぜん女性化してしまった元男性の性転換者。
「あれ織姫ちゃんに短冊ちゃん」
「偶然ですわ!」
「まさか熱海でこより様とお会いできるなんて!」
「わたしたち二人で親睦を深めに旅行にきましたのよ」
二人は同じ三年一組のクラスメイト。帝織姫ちゃんと七夕短冊ちゃん。それにしても凄い偶然だ。
「嘘だな」
「嘘ね」
「嘘よ」
ボクの姉と幼なじみとその姉が同時に断言した。なんて失礼なことを言う人達だろう。
「中学三年生が保護者の付き添いもなく熱海旅行するかい」
「こよりくんに声をかける前の"せーの"ってかけ声は何よ」
「市内観光してる時の妙な視線はあなたたちね」
あちゃー、もうバレたー。そんな顔を二人はしていた。え、偶然って嘘なの。
「嘘をつきました。ごめんなさい」
「だって、お休みだからデートにお誘いに行ったら熱海に旅行とお母様からお聞きして」
「それで追いかけてきた・・・と」
「凄い行動力と経済力ね」
ふつう土曜日の当日に観光地のホテルを抑えることはできない。しかも中学三年生の女子が二人でお泊りなんて。ホテル側も宿泊を受けつけない。
そこからして二人の家の権力と財力が透けて見えた。じっさい神戸の帝財閥を知らない人は少ないし、公家の七夕家もその世界では有名だ。
「せっかく来たんだ。一緒に食べよう」
「「こより様」」
二人の目がきゅるるんと輝く。甘いなぁ、こよりくんは。そんなところも好きなんだけどさ。恋人の百合はそう思った。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「はい、こよりくん。あーん」
「むぐむぐ。美味しいよ、百合ちゃん」
「お返し」
「もぐもぐ。ほんとだ美味しい」
ジーッ
「織姫ちゃん、短冊ちゃんも食べるかい」
「「いただきます!!」」
「美味しいうえに幸せですわー」
「これが夫婦の共同作業ですのね」
女三人寄れば姦しい。六人なので倍騒がしい夕飯となった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「ふぅ。おなかいっぱいだ」
ディナーバイキング会場でたらふく食べたボクはトイレに行きたくなった。みんなには先に部屋へ戻ってもらう。
用を足したので直通エレベーターで最上階へ。部屋に戻る途中、後ろから何者かにハンカチを口元に当てられた。
ふっ
意識が遠くなっていく。これは麻酔か。一体どこの誰がこんなことを・・・。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「また知らない天井だ」
ベッドのうえで目覚めたボクは全裸だった。そしてボクの左右には織姫ちゃんと短冊ちゃんが正座していた。
二人とも全裸だった。
「「こより様。お情けを頂戴いたします」」
お情けって、ようはスるってことだよ。二人とも意味がわかってますか。
はい異世界シニアです。
このところパソコンで執筆しています。スマホよりも早く執筆できることに驚きました。
次回こよりトランスレーション。こより◯◯(仮称)。
全米が泣いた。