こよりバスタイム
これから自分はどうなるのだろう。
ボクは神人こより。ふつうの男子中学生だ。三年生になってはじめての登校日の朝、ボクはとつぜん女子中学生になった。
この奇病の名前は性転換症候群。男性が女性化してしまい元には戻れなくなるもの。日本だけでなく世界各地で爆発的に蔓延していた。
男性ならば年齢に関係なく発症する。いまのところ一万人に一人の発症率らしい。一万人に一人って。皇流拳法の中学生の部で全国一位になるくらいに凄いことなんだけどね。ボク一位になったけど。
ボクのことはどうでもいい。性転換症候群で変身した人のことを政府はトランスレーターと呼んだ。
そうボクはトランスレーターこより。不思議な魔法の力で悪い魔法使いから世の中を守るの!なんて現実逃避してみたりする。
「こより、コレはどうかしら」
「このブラウスも似合うわ」
「いいえ母さん。こっちのほうが素敵よ」
ここは自分の家。そしてお姉ちゃんの部屋。ボクは母と姉の着せ替え人形にされていた。
さいわい明日から通う都立第三女子中学校の制服もお姉ちゃんのお下がりでなんとかなった。ありがたや。でもお姉ちゃん、胸の布地がすんごく余ってるんだけど。
神人おりがみ。都立第三高校の一年生でボクの姉。キーワードで表現するのなら黒髪で清楚なお姉様だ。胸は大きい。思春期のボクは姉を見るとドキドキしてしまうくらいに。
けれど姉はボクが中学生になってからボクを見なくなった。まるで興味を失った玩具のように。
その姉が興奮している。まるで自分だけの宝物をみつけたように興味津々だ。なにがあった。考えられるのは自分が女体化したことくらいしかない。
「お母さん、下着はどうする」
「スポーツブラとスパッツなら動きやすいんじゃない」
「それだと色気がまったくないわね」
「あなたの新品をプレゼントしたら」
「そうね。こより、これなんてどう」
姉が洋服ダンスから出したおぱんつは黒のレースでとても女子中学生が身につけるとは思えない扇情的なモノだった。
「!!」
「さすがにこれは」
「似合うと思うの」
「ボク、スポブラとスパッツでいい!!」
これは黙っていたらどんな結果になるかわからないぞ。主張しなければ権利なし。これが神人家の掟だ。
そう神人家はお父さん以外すべて女性になってしまった。
ボクがいなくなったせいで、ただでさえ肩身の狭い父親は、今後なにも口出しができなくなるだろう。
母と姉、恐るべし。
どう考えても中学三年生が身につけるハズがない黒いおぱんつを握りしめ、本当に残念そうな顔の姉にボクは少し恐怖を覚えた。
「あー、生き返るううう」
風呂はいい。ボクがこの家で一人になれる自由の場所だ。
今日は本当にいろいろあった。朝から性転換して倒れて病院に運び込まれて百合ちゃんとお別れして帰宅したら着せ替え人形になった。
「百合ちゃん・・・」
ボクの彼女でお嫁さんになるハズだった女の子の名を口にする。ファミレスで百合ちゃんは泣いていた。駄目だ、思い出すと涙が出てきた。泣きたいのは彼女のほうなのに。
ボクは顔を湯面につけて叫ぶ。ごめんなさい百合ちゃんごめんなさいごめんなさい・・と。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「こより」
「なに?お姉ちゃん」
「入るわよ」
「!!」
返事も待たずにお姉ちゃんが風呂場に入ってきた。もちろん体にはバスタオルを巻いていたけれど。
「ちょっ」
「なに姉妹で恥ずかしがってるのよ」
確かに姉妹だけど、それは今朝からですよね。昨日までは姉弟でしたよね。そもそもお姉ちゃん、昨日までは風呂場にも寄り付かなかったじゃん。
「体を洗ったげる。出なさい」
「はぁい」
まあ姉妹でも姉弟でも仲良きことは良きことかな。自分ではなかなか背中も洗えないし。
「本当に女の子になってしまったのね」
「そうみたいだね」
お姉ちゃんとこんなにお話するのはいつぶりだろう。少し嬉しい。
ゴシゴシゴシゴシ
「小さい背中」
「そりゃ女の子だからねー」
「かわいい」
「へっ」
お姉ちゃんがボクを後ろから抱きしめた。いやそれ家族と言っても過剰なスキンシップじゃありませんか。
「それにかわいい蕾」
「ひぁっ」
なんかコリコリされてるぅ。
「だめ、やめて、お姉ちゃん」
「よいではないかよいではないか」
キャラが変わってきてますよ、お殿様。お姉ちゃんは調子に乗って行動がエスカレートしてきた。
「ここもしっかり洗わないとね」
「や、だめ、そこは姉妹でもだめ!」
「遠慮しないで」
「遠慮しますぅ」
ヌル
「アッー」
ボクもうお嫁にいけない。
はい異世界シニアです。
さっそくの第三話いかがでしたか。姉妹で仲良くお風呂回。
なんて健全なんでしょう!(すっとぼけ
作品を読むときの広告でさえフリーワイファイや健全コミックになりました。
こうなったら小説界のとらぶる、矢吹神を目指すしかありませんね。
嘘です。
次回こよりトランスレーション。こよりゴートゥースクール。
姉やらかします。