こよりザ・ロンリーキング
チュンチュン
「う・・・ん」
朝か。ゆっくりと目を開く。
「知らない天井だ・・」
そうか。昨日は百合崎白百合さんの作画スタジオで治療してもらって、遅くなったから泊めてもらったんだ。
昨夜のことを思い出す。あの後も白百合さんの治療は続いた。何度も果てた。回数なんて覚えていないほど達した。さいごはボクから白百合さんにキスをしていた。
お尻って性感帯なんだね。知らなかったよ。
右を見ると白百合さんがボクに寄り添って静かに眠っていた。キレイだな。こんな人にボクは告白されたんだ。
「百合と別れて、わたしのものにならないか」
それでもいいのかな。白百合さんは大人だし優しい。経済力も包容力もある。百合ちゃんには申し訳ないけれど、ボクは流されてしまった。
制御できないハンドパワーをモノにするため、結果的に百合ちゃんを裏切ってしまった。許されないことをしでかしてしまったのだ。
ボクは穢れてしまった。白百合さんとこうなってしまったことは後悔していない。けれど百合ちゃんにふさわしい恋人ではなくなった。
「うっ」
涙が出てきた。自分が悪いのに。自らが招いた結果なのに。
「ぐすっ、百合ちゃん。ごめん」
ボクは神人こより。男だったけれど奇病で女性に性転換してしまったトランスレーター。
恋人のお姉さんと寝てしまった最低の女の子。
白百合は少し前にめざめていた。隣に寄り添い、妹の名前を呼びながら泣きじゃくるこよりを見守るしかできなかった。
「おはよう」
「白百合さん、おはようございます」
わたしはこよりくんが泣き止んで少したってから何も知らない顔で声をかけた。
「よく眠れたかい」
「はい。白百合さんのおかげでぐっすり」
「それはよかった」
ん
白百合さんがキスを求めてくる。ボクもそれに応える。ちゅっ。なんだか照れくさくなってくる。
「どれ」
白百合さんがボクの手を握る。指を絡めた恋人繋ぎだ。
「ふむ」
おもむろにその指を離すと自分の胸に置く。
「ふっ」
「大丈夫ですか!」
「ああ、普通に気持ちいいだけだよ」
「よかった。気絶されたらどうしようかと」
「ハンドパワーをコントロールできるようになったのか。それとも」
「それとも?」
「単に性欲を解消した結果なのか」
「えええ」
ふと白百合さんは考え込む。そして次の言葉を慎重に口にした。
「ハンドパワーの暴走はまた起きるかもしれない」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
ガォン
姉の跳ね馬のエキゾーストノートの音がする。お姉ちゃんが作画スタジオから帰ってきた。こよりくんとあんなことをしておいて。
ガチャ
「ただいま百合」
「おかえりなさい。お姉ちゃん」
「話があるの」
「わたしもだよ」
パンッ
百合の右平手打ちが決まる。
「痛いなぁ」
「なんであんなことをしたの」
「必要だったから」
「妹の恋人と寝ることが必要なの!?」
「そうだ」
「信じられない」
部屋を出ていこうとする百合の背中に声をかける。
「百合がこよりくんをまだ愛しているのなら話を聞きなさい」
「聞くわ」
そこからの姉の話は信じられないものだった。恋人の体に起きていた異変。そしてその原因らしきことに。
「こよりくんは孤独な王様だ」
「確かにこよりくんは世界三十八億人の女を幸せにできる」
「では質問だ。誰がこよりくんを幸せにする?」
「いや、もっと具体的に言おう」
「いったい誰がこよりくんの性欲を満足させる」
「こよりハーレムも百合もこよりくんに愛されることばかり考えている」
「それではあの子の性欲とストレスは何も解消されない」
「溜まる一方だ。そして溜まった性欲とストレスはハンドパワーとなって放出される」
「じっさい、こよりくんの性欲が解消されたらハンドパワーは消えた」
「あの子には甘えられる存在が必要なんだ」
姉が一気に話し終える。
「許してとは言わない」
「お姉ちゃん」
「こよりくんはわたしが守る」
「!!」
本気の目だ。この人は本気でこよりくんのことを考えている。守ろうとしている。遊びじゃない。
「ふぅ」
百合は決意した。自分で自分の頬を殴る。口から血は出たがティッシュで押さえる。
これは姉への礼と謝罪だ。本当は自分が気づかなければならないことを教えてくれたことへの礼。そして、さっきの平手打ちをした謝罪。
姉は自ら汚れ役を買ってくれた。こよりくんのために体を張ってくれた。まあ肉欲もあったんだろうけど。そこは目をつぶろう。
「こよりくんはわたしのもの。誰にも渡さない」
「わたしに勝てるかな」
「お姉ちゃんなら愛人で許してあげる」
「悪いな。一番にしか興味はないんだ」
お互いがこの人の姉妹でよかったと思える土曜日の午後だった。
はい異世界シニアです。
こちらの世界でも姉妹対決が勃発しました。
総受け体質のため流されてしまうこよりくん。いろいろとトラブルを呼び込みます。
次回こよりトランスレーション。こよりエクスカリバー。
行くぞ英雄王。武器の貯蔵は十分か。




