こよりブレークハート
あの女の子は誰だ。
雰囲気が彼氏に似ている。けれど、その女の子は水色のふりふりで可愛いワンピースを着ていた。華奢な肩、すらりとした脚。長い髪。密やかながら主張するふたつの胸のふくらみ。間違いなく女の子だ。
でも隣りにいるのはこよりくんのお母様。さらにその女の子と手を繋いでいるのはこよりくんのお姉様だ。
では、あの子は誰。
こよりくんに妹はいない。彼女である自分は彼氏のおうちに何度もお邪魔している。確信が持てないので声をかけられない。もう少し近づいてみる。
わたしは百合崎百合。神人こよりくんの同級生で彼女だ。今日から新学期なのに彼が学校に来ない。担任の先生によれば倒れて大学病院に運ばれたそうだ。
授業が終わるとすぐに大学病院まで姉の車で送ってもらう。そのとき、見慣れた家族の姿が見えた。
それにしても可愛い。まるで芸能人だ。俯いている顔があがる。
「!!」
美少年の精悍さは消えているけれど間違いない。どうして。どうして、わたしの彼氏が女の子の格好をしている。
「こより・・くん」
思わず声をかけていた。
「妹のこよりです」
「こよりです」
ここは病院近くにあるファミリーレストラン。わたしの前には仲良さそうに座る神人姉弟がいた。
なぜかお姉様の"おりがみ"さんが弟の手を繋いだままなのが気になるけれど。少しジェラしってしまう。お姉様は家族なのに。
こよりくんのお母様は明日からの準備があるからと先にお帰りになった。わたしはこれまでのいきさつをこよりくんから聞いた。
「・・・・というわけなんだ」
「こよりくんがこよりちゃんに・・・」
呆然とする。結婚の約束までした男の彼がわたしと同じ女になってしまった。中学生の自分の頭ではとても理解が追いつかない。
「百合さん」
静かにお姉様が口を開く。
「こよりは女になってしまいました」
やめて。言いたいことはわかっている。でも今はやめて。あまりにも急すぎる。
「申し訳ないけれど、こよりのことは忘れてほしい」
「!!」
「お姉ちゃん、ちょっと待って」
「待ってどうするの。あなたはもう戻れないのよ」
「そうだけど。ボクからも言わせてよ」
姉は仕方ないなという顔をする。
「ごめん、百合ちゃん」
「こよりくん」
「結婚できなくなっちゃった」
彼の本当に残念な心の声が届く。嘘偽りのない本心だ。なのに喜べない。だって法律的には結婚できない。アレもできない。子供だって残すことはできないのだ。
打算的かもしれないが、百合はそれなりに常識的かつ現実的な考えができる女の子だった。
「いままでありがとう」
「さようなら」
何も言えなかった。ただその場で泣き崩れるしかないわたしがいた。
どれくらい時間が経っただろう。泣き止んで顔をあげると二人の姿はなく、レシートもなかった。
ご馳走になってしまった。本当にお姉様には申し訳ないことをした。
わたしは百合。わたしの初恋はとつぜん終わった。
はい異世界シニアです。
また後書きで嘘をつきました。お姉ちゃんとお風呂は次回になります。
やはり彼女との別れはすませておかないと先に進めませんから。
次回こよりトランスレーション。こよりバスタイム。
お楽しみに!!