こよりハンドパワー
「あなたの手は凶器よ」
京都での修学旅行、二日目の朝。大宴会場での朝食の席で笹飾ねがいちゃんが宣言する。
「間違いない」
「「ヤバいっす」」
「まさしく抜き身の刀かと」
同じグループの女の子全員がねがいちゃんの言葉に賛同する。
「ちょっと待ってよ。そりゃ拳法は使うけど無差別に攻撃はしないよ」
「そういうことじゃないの」
「え」
「ハッキリ言うわ。こよりちゃんは女の子に触っちゃ駄目」
「たとえ事故でも・・です」
「「ヤバいっす!!」」
起床すると七夕短冊ちゃん以外の女の子の顔がツヤツヤしていた。とても充足し満足な顔をしていた。
「もしかして、ボクやらかした?」
「ええ。盛大にね」
「「「ヤバかったす!!!」」」
「土下座三人衆だまれ」
「「「サーイエッサー!!!」」」
ねがいちゃんの話をまとめるとこうだ。
ボクの手が女性の体に触れると強制的に達してしまうらしい。手を繋ぐくらいは大丈夫だけど首、背中、腕はもちろんのこと、胸や性器は即失神レベルだそうだ。
首、背中、腕は昨夜のお風呂でのことがある。でも胸や性器ってどうやって調べたのだろう。まあ詮索するのはやめておこう。
「とにかく気をつけて」
「これ以上、ハーレム要員を増やさないでくださいよ」
「「そうっす」」
「こくこく」
短冊ちゃんのモクモク食べる姿がハムスターみたいで可愛い。
「わかった。教えてくれてありがとう」
皆で朝食を終えて大宴会場を出る。その時、曲がり角からおしゃべりしながら歩いてくる三人の女生徒の一人がボクにぶつかった。
その時、ボクの左手の甲がぶつかった彼女のお尻に触れてしまった。仮に他校のモブ子としよう。
「ひぁ」
その場で崩れ落ちるモブ子。まるで雷に打たれたようだ。これがボクのハンドパワー効果なのか。
「おっとお嬢様、貧血かい」
「睡眠はしっかりとらないと駄目よ」
「鉄分がおすすめです」
「「お大事に!!」」
ぽかんとした他校の三人組を残し、ボクたち六人はその場をそそくさと立ち去る。
「もうわかったでしょ」
「うん」
こんなこともあろうかと彼女たちはあらかじめフォロー対策を考えてくれていた。本当にありがたい。
「ほんとだ。床がキュッキュッ鳴る」
京都での修学旅行二日目は自由行動だ。いくつかのお寺をみんなで巡る。
そろそろ集合場所に戻る時間かな。その時、後ろから声がした。
「いました!あいつです!」
「帝さん、こいつらです」
朝の三人組だ。モブ子もちゃんといる。
「ああ、朝の貧血っ子か。なんか用かい」
「とぼけるな!スタンガンなんてモブ子に使いやがって!」
「ヒドイ言いがかりね。疑うなら身体検査してもいいわよ」
あ、モブ子で確定なんだ。
「まあ待ちなさい」
「でも帝さん!」
「お黙りなさい」
「!!」
「帝織姫か」
「あら、わたしに負けて万年二位の主将さんじゃない」
帝織姫。神戸聖女学院拳法部の主将。第一印象は悪役令嬢。栗色の縦ロールってリアルで初めてみた。
「そちらは全中一位の神人こよりさんね」
「嬉しいね。キミのような綺麗なひとに覚えてもらって光栄だよ」
「ッ」
おいおい顔を真っ赤にして黙っちゃったぞ。悪役令嬢転じてポンコツチョロインか。この子。
「と、とにかく責任はとっていただきます」
「どうやって」
「この場でわたしと勝負していただけるかしら」
「乱取りかい」
「ええ」
仕方ない。原因を作ったのはボクだ。相手をしなければ収まりそうにない。人目があるので寺の裏に回る。さいわい誰もいなかった。
「それでは一本勝負はじめ!!」
主将が合図をする。
「死にものぐるいでかかってらっしゃい」
お蝶夫人かよ。女子の全中一位。舐めたら痛い目にあうな。恋人の百合ちゃんにも寝技で負けるボクだもの。
百合ちゃんのことを考えて、つい口元がほころぶ。
「なにを笑ってますの!」
カッとしたか。織姫が先にしかけてきた。リーチの長さを警戒して中段蹴りをボクの鳩尾に当てにくる。白いレースの高級そうなおぱんつが丸見えだよ、お嬢様。
パシッ
ボクは左腕で円を描くようにさばく。やはり女の子の蹴りだ。軽い。そして実戦は少ないのだろう。型通りの攻撃だ。
魅せる演舞ならともかく、リアルではお話にならない。その後もボクは彼女の攻撃をさばき続けた。
ハァハァハァハァ
三分もしないうちに織姫の息があがる。ボクはその場からほとんど動かずに彼女の攻撃をさばいていた。
「さすが、わたしの認めたお方ね」
「ありがとう。キミのような素敵な人に認められて嬉しいよ」
「ッツ」
あらら黙っちゃたよ。もういいかげん終わらせないとな。このままだと弱いものイジメだ。
「じゃあ、こっちからいくよ」
「!!」
縮地で彼女の前に進む。腹に一発。それで終わりだ。その時、踏み込んだ足が砂利で滑る。しまった!ここは木の床やアスファルトじゃなかった。
むにっ
織姫の腹をワンパンするハズだったボクの右手はグワシと彼女の右胸をわしづかみしていた。
「ひぁ!!!」
彼女の意識が一瞬で刈り取られる。グルン。白目をむいてしまった。そのまま後ろに倒れ込む。いけない、後頭部を打つぞ。
ボクは彼女を両手で抱きかかえた。左手は頭を地面から守るために首筋を。右手は彼女のお腹。いわゆる子宮あたりに添えた。
「ふぁあああああああ!!!!!」
ビクンビクンと織姫の体が跳ねる。完全に気を失っていた。白いニーソとミニスカートのあいだからはツーと液体が垂れている。
「やっちまったなぁ」
「これが両手の威力。ごくり」
「「凄まじいっすね!!」」
「怪我はありませんか、こより様」
なんで短冊ちゃん以外の女子がみんな股をモジモジさせてるのさ。
気絶した帝織姫はモブ子たちに任せ、ボクたちは集合場所へ急ぐ。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「帝さん!」
「あ・・・わたくし」
「よかった」
「そう、負けたのね」
「ワンパンでした」
「子供扱いでしたのね」
寺の境内に寝かされた織姫は腰にバスタオルが置かれていることに気づく。戦いの中で果ててしまった。それどころか気絶させられた。いまでもあの衝撃を忘れられない。あれが本当の女の歓び。
「神人こより様」
また新たなフラグを立ててしまったことをこの時のボクは気づきもしなかった。
はい異世界シニアです。
まさにエロ拳法。女子相手なら向かうところ敵無しのこよりです。
そしてまたフラグをおっ立ててしまいました。
舞台は東京に戻ります。ハンドパワーに覚醒したこより。恋人の百合ちゃんとお部屋デート。
さあどうなりますか、
次回こよりトランスレーション。こよりハウスデート。
ナイショッ!