こよりスリーピング
かっこいい。なによりも美少年なのがよかった。こんな男が恋人だったら。
皇流拳法の全国中学生大会。略して全中。わたしはそこで彼をみつけた。
スラッとした体躯。少し伸ばした栗色の髪を後ろでまとめていた。顔は幼いがまるで歌って踊れる男性アイドルグループのメンバーを想像させる。
ようは好きにならない女はいない。
その彼の名は神人こより。とある道場から出場していた。年を聞くとわたしと同い年だという。
彼はあれよあれよと勝ち進み、とうとう全国一位をもぎ取った。タオルを手渡しする可憐な女の子といい雰囲気だったので察した。
彼には心に決めた女がいる。当たり前だ、あんな強くてかっこよくて美少年なんだから。
わたしの淡い初恋はすぐに消えた。
わたしは都立第三女子中学校の拳法部の主将。名前はいつか明かそう。
そこ、決して作者が名前を考えるのが面倒なわけじゃないから誤解をしないように。
ほんと、いつか考えてくれるといいなぁ。
「どうするんだよ、これ」
わたしは名無しの主将だ。前回、お風呂でこよりさんのハンドパワーがキてますというところで終わった。
「ほんと、どうしようかしら」
わたしは笹飾ねがい。名前があるって素敵よね。あらやだ睨まないでよ主将。
「じゃ、じゃあ、わたしはこより様の隣で寝ますね!」
わたしは七夕短冊。こより様のクラスメイト。電車で痴漢から助けてくれた彼女に恋する乙女。
「「とりあえず、やってみるしかないっす」」
名無しの不良部員のA子とB子がはもる。
神人こより。新学期から転入してきた性転換者。もとは男性。けれど今は間違いなく女性。
トランスレーターには特殊能力がある。彼らの近くにいると、放出する媚薬効果のある誘惑フェロモンによって女性はメロメロのエロエロになってしまうのだ。
さらに夕方のお風呂でこよりの手は女性にとって凶器の可能性がでてきた。ちなみに手を繋ぐ程度なら問題はない。
首や腕、背中をあの手に触られると、女性は強制的に達してしまうのだ。首や背中、腕であれだ。胸や股間なんてどうなるか想像もつかない。
これはぜひとも試してみたい。違った。調べるしかない。
だって放置はできない。何も知らない女性がこよりに抱きついたらどうする。その場で卒倒して事件になってしまうかもしれない。
抱きつかなければいいんだけどね。さらに問題は媚薬効果のある誘惑フェロモン。これがトリガーになる恐れもある。
「まさしくウーマン・キラー。女の天敵だな」
「本人も女だけどね」
「女を堕として子供は作らないっす」
「少子化で悩む日本の敵っすね」
笑い事ではない。いつか性転換者は隔離される日がくるかもしれないのだ。
だが当の本人は部屋に帰ってくるなり爆睡してしまった。まさしくどうすんだよコレ状態だ。
何もしないとホテルに連れ込んだ男が先に寝てしまい、本当に何もされなかった女の気持がわかる気がした。
作戦会議だ。
・こよりが寝ていてもハンドパワーはあるのか
・両手にハンドパワーが宿っているのか
・手を当てる部位によって効果に差はあるのか。具体的には胸と下半身
・全員が討死した場合、誰が隠蔽工作をするのか
だ。
全員で特攻し討死した場合、朝おこしに来た担任に惨状が発見され、こよりのハンドパワーがばれる恐れがある。
誰かが生き残り、後世にこの実験結果を残さなければならない。アヘ顔や大洪水で発見なんて恥ずかしすぎるしね。
話し合いの結果、役割分担が決まった。右手下半身をA子。左手下半身をB子。右手胸をねがい、左手胸を主将。隠蔽工作を短冊が担うことになった。
こよりの左右、腰のあたりにA子とB子がスタンバイする。お互いがこよりの片手を両手でもちあげて固定する。あとは自らの下半身をタッチダウンさせるだけだ。
「「イキまーす!!!!」」
ドサッ
二人が同時に倒れた。失神していた。
「寝ていても効果は変わらないのね」
「しかも両手だ」
「あらあら大洪水ね」
「こいつら・・・無茶しやがって」
「あなた気づいて」
「何を」
「ふつう自慰で達しても失神はしない」
「寝落ちはするけどな」
「それだけ凄いのよ」
ごくり。
これから自分に起きることを考えると恐ろしくなってきた。だけどやめることはできない。主将と二人でA子とB子を布団に運び、掛け布団を顔までかける。
次はわたしたちが逝く番だ。
「短冊さん、後はよろしくね」
「悪いな、頼むわ」
「ご武運を」
二人はそれぞれこよりの腰辺りに座る。そしてこよりの手を両手でもちあげる。浴衣の前を開いて準備完了だ。
ねがいと主将はお互いが準備完了したことを目配せで確認する。
「じゃあな」
「あなたもね」
「天国で会いましょう」
「おうよ」
覚悟は決めた。大好きなこよりのためにわたしたちは逝く。あとはこの手を胸に差し入れるだけ。
「「南無三!!」」
ほぼ同時に二人が倒れ込む。それを確認した短冊は二人の幸せそうなアヘ顔をみながら掛け布団を顔までかける。
「ご苦労さまでございました」
まるで切腹した武士を労るような優しい瞳だった。
「さて、わたしも寝ましょうか」
短冊はこよりの横に添い寝をして、手を恋人繋ぎにする。
「こより様、おやすみなさいませ」
はい異世界シニアです。
ひどい。これはひどすぎる。
書き終わって読み返すとますますヒドさが伝わります。
だがこれでいい。
なんと主人公のこよりが寝ているうちに話が始まり終わってしまいました。
まあ起きていたらできないお話でしたけれど。
やってる本人たちは至って本気だから困ってしまいます。それもこよりを思えばこそ。
次回こよりトランスレーション。こよりハンドパワー(仮)。
仮面の下の涙をぬぐえ!




