こよりトランスレーション
こいつ強い。
上中の二段突きをさばいたあと、死角からみぞおちを狙う右中段蹴りをかわす。
ボクが学ぶ皇流拳法の基本は相手の裏側に回るところにある。なぜなら関節は逆に曲がらないから。曲がるときは折れるときだ。
ボクは対戦相手の右足を払いながら背中側に回り込む。すれ違いざま、がら空きの腹に右拳を叩き込んだ。
「阿ッ」
相手が畳に倒れ込む。気合とともに残心の姿勢に戻る。
ピーッッッ
試合終了の合図が鳴る。勝った。
「やったな、こより!」
「やりやがった!こいつ、やりやがった!」
「おめでとう!!」
同じ道場の仲間たちが駆け寄ってくる。男がほとんどだけど、中には女の子もいる。
「こよりくん、優勝おめでとう」
ボクの彼女でもある百合崎百合ちゃんがタオルを渡してくれる。
「うん、百合ちゃん。ありがとう」
ボクは神人こより。中学二年生の男子。この日、皇流拳法・中学生男子の部でボクは日本一になった。
ちゅんちゅん
朝か。まだ三月の朝は寒い。毛布にくるまって二度寝したい。二度寝しちゃおうかな。そして寝返りをうとうと体を動かしたとき、体中に激痛が走った。
「いででででででででででで」
くっそ、昨日の大会でどこかにダメージを喰らったかもしれない。腕なんか相手の攻撃をさばいたときの打撲で何箇所か内出血していた。
そのとき自分の腕をみて違和感を感じた。なんだか腕が細くなっている。
「あれれ。パジャマもブカブカだ」
頭がフラフラする。風邪でもひいたのかなぁ。なんとかベッドから身を起こす。これはヤバい。普通の状態ではなかった。
はやく母さんに助けてもらわなければ。
フラつきながら自室のドアを開ける。ズボンもパンツもブカブカだ。体が小さくなっているのか。
ボクの体いったいどうしちゃったんだろう。
カチャリ
その時、隣の部屋のドアが開く。一つ年上のお姉ちゃんが制服を着て部屋から出てきた。
「おね・・え・・ちゃ・・ん」
「こより、おはよう」
「たすけて」
姉がボクの異常に気づく。
「あんた、どうしたの!?」
「なんかフラフラする」
ストン。そのときボクのパジャマとトランクスが足下に落ちた。
「え」
そこには本来あるモノが存在しなかった。ボクの股間にあるはずの男の象徴"マグナム44"は姿を消していた。なんてこったい。自慢の息子だったのに。
そのまま姉に倒れ込む。
「こより、しっかりして、こより!」
ボクは意識を失った。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「性転換症候群ですね」
ここはボクが救急車で運ばれた病院。精密検査を終えた僕と母さん、そして姉は医師の検査結果を聞いていた。
性転換症候群。いま世界で猛威を奮っている男が女になってしまう原因不明の病だ。
「息子はもう元には戻れないのでしょうか」
「これまで元に戻った例はありません」
「なんてこと・・・」
「弟が妹になってしまうなんて」
なんてこった。ボクはもう男には戻れないらしい。
それにしても隣に座るお姉ちゃんがヤケに優しい。ずっとボクの手を握って離さないのだ。
いままでこんなことなかったのに。しかも指を絡める恋人繋ぎなんだけど。なんだか恥ずかしいよぅ。
「トランスレーターと認定されると学校も変えなければいけません」
「窓口で手続きのしおりをお渡ししますのでお大事に」
「ありがとうございました」
これから大変だ。私服はお姉ちゃんのお下がりがあるけれど、新しい学校の制服も買わなければならない。
しかも女の子の。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
家族三人で病院の玄関を出る。
「こより・・くん?」
目の前に立っていたのはボクの彼女、百合ちゃんだった。
はい異世界シニアです。
恥ずかしながら帰ってまいりました!
今度はTSモノです。男の子が女の子になってしまいます。そして主人公の周囲は女の子ばかり。
もう展開は読めましたか。はいガールズラブの世界へようこそ。
次回こよりトランスレーション。姉とはじめてのお風呂。
やっちまったなぁ。