能力値
修行の甲斐なく竜ケ崎君の投球は相変わらず乱れていた。
「下半身が安定してねぇな」
津賀さんが竜ヶ崎君の太ももの筋肉を確認する。
「細いな」
あぁなんか竜ケ崎君が昇天しそうだ。
がんばれ!耐えろ!竜ケ崎!
津賀さんがこっちに来る。
「やっぱ最低でもこれぐらいの筋肉はないとダメだよな」
そういいながら僕の太ももを、おしりをそして内転筋を触る。
まっまずい。
竜ケ崎君の前に僕が昇天してしまう。
耐えろ!絶えるんだ僕。
「でもお前は上半身がいまいちだな」
津賀さんの手は僕の上半身に移っていく。
もう限界だ。
竜ケ崎君の手を取りその場を走り去った。
しばらく走り落ち着いたのでグランドに戻る。
グランドの横で柿崎とマネージャーたちが深刻そうな顔をしている。
「どうした?深刻そうな顔して?」
「新澤君!これを見て!」
佐々原さんが封筒を5つ僕に渡した。
その封筒の表には退部届と書いてある。
5通・・・柿崎はここにいるから違うとして竜ケ崎君と僕がここにいて3人、今の野球部の部員は1人かけて8人・・・ここにいる3人以外全員辞める?
「もう野球が出来ないわ」
佐々原さんが深刻な表情でこちらを見つめる。
その顔もまた・・・そんなことを考えている場合ではない。
「やはり・・・坊主にしないのがまずかったのでは・・・」
そう言いながら姉川さんが僕の頭をなでる。
「坊主・・・坊主にしない?ねぇ?」
減ってしまった坊主の補充をしようとしているのだろうか?
「いっ今は坊主とかそれどころじゃないから・・・」
「でも本当にどうするの?」
長名瀬さんが僕の腕をつかんで近づいてくる。
ちっ近い近い近い・・・。
こんなに多くの女子に詰め寄られちょっと汗が出てきた。
「あら良い感じに汗かいてきたわね?」
監督がそっと近づき僕の汗をなめた。
来るとは思ったけど・・・この状況・・・もう部員がどうとかどうでもよくなってくる。
「とっとにかくいったん落ち着こう」
今この場で一番落ち着いていないのは僕だとは思うけど・・・。
冷静に冷静に・・・目を閉じ一旦心を落ち着かせる。
そっと目を開ける。
目の前にはこっちを見る女子の集団・・・全然心が落ち着かない。
年上の汗好きの女子
坊主頭マニアの女子
野球が好きな女子
超能力女子
筋肉マニア女子
・・・と・・・メガネ女子・・・誰?
知らない女子だ。
小柄でメガネでちょっと地味な感じの女子・・・これはこれで良い・・・なんて考えている場合じゃない。
誰?
「・・・・・」
・・・聞こえない。
口は動いてるから何か喋っているとは思うんだけど聞こえない。
「・・・・・」
「ん?」
すごく近くに行く。
耳を口の近くへもっていく。
・・・聞こえない・・・けど耳に息を吹きかけられている感じはする・・・。
「・・・・・」
何か言ってはいる・・・が聞こえない。
「あの・・・マネージャー希望って言ってるよ」
「聞こえるの?聞こえるの竜ケ崎君?」
「うそ?しゃべってた?」
女子たちはしゃべっていることにすら気づいていなかったようだ。
「うん、うっすら聞こえる」
超能力・・・なのかな・・・絶対普通の人には聞こえないと思う。
「でも・・・今マネージャーいっぱいいるから・・・」
「・・・・・」
「データ分析に自信ありって言ってるよ。野球に関する特殊能力があるって」
「特殊能力?どんな?」
メガネの女子がタブレット端末を出しこちらに見せる。
僕を指さし、じっと僕を見る。
タブレットに何か表示される。
名前:新澤翔真
年齢:16歳
右投げ右打ち
ミート力 70
長打力 30
守備 50
走力 50
「これは?」
タブレットに文字が表示される。
【野球に関する現在のあなたの能力値です】
「いやいやそんなものがわかるわけないじゃん」
そういいながらもちょっとその可能性があると思ってしまう。
だってここにはすでに超能力者が2人もいるんだから・・・。
「そういえば名前は?それと・・・竜ケ崎君見てもらって良い?」
【戸戸園このみ(ここそのこのみ) です】
戸戸園さんが竜ケ崎君を見て指さす。
名前:竜ケ崎剣
年齢:16歳
左投げ左打ち
ミート力 10
長打力 10
守備 10
走力 10
特殊 120
まあそんなもんだとは思うけど・・・気になる項目がある。
僕にはなかった奴・
「特殊ってなに?」
【何かと別な力を感じます。野球に関する力・・・すごい力を感じます】
・・・合ってる、確かにすごい特殊能力は持っている。
やばいまた特殊能力持ちがやってきた。
「ねぇねぇ女の子とかでも見れるの?」
【うん、見れます】
名前:佐々原さくら
年齢:16歳
右投げ右打ち
ミート力 50
長打力 20
守備 40
走力 20
へーさすが野球好き。
それなりの数字が出てる。
「じゃあ柿崎は?」
名前:柿崎太陽
年齢:17歳
右投げ左打ち
ミート力 1
長打力 1
守備 1
走力 1
異常に低い・・・。
「柿崎最弱だな!」
「そっそんなわけない!計測間違いじゃないか?」
「いやーそんなもんだろ。だって下手だし」
【おかしいですね。生まれたばかりの赤ん坊でも3以上の数字が出るんですけど・・・】
赤ん坊以下・・・さすがに言葉が出ない。
【それでマネージャーの件なんですけど・・・】
「もちろん入部で!!」
戸戸園さんが新しいマネジャーに加わった。
野球部員3、マネージャー5・・・マネージャー部・・・マネージャー部の野球部員そんな感じになってきた。
野球部にするために部員急募だ!
能力3以上の逸材を探さなきゃだ。