超能力の限界
練習試合当日
監督からスターティングメンバーが発表される。
と言っても9人しかいないのだから全員試合には出るんだけど・・・。
「1番キャッチャー 新澤君よろしくね」
その一言とともにそっと抱き着く。
おぉぉぉ!!なんだなんだ!一気に僕の中の女子があふれ出す。
はぁはぁはぁはぁはぁ、強烈な一撃だ。
危うく力尽きるところだった。
この儀式はその後も続き、続々と純真な男子たちを惑わせ女子でいっぱいにしていく。
監督・・・もう試合どころじゃなくなってます。
「4番サード 柿崎君よろしくね」
顔を真っ赤にして歯を食いしばる柿崎主将。
受け入れるな!!
あんなにへたくそなのに4番?辞退するとか躊躇するとか。
っていうか最低でもハグは拒否しろよ。
むしろハグだけ拒否しろ!!!
そんなイライラもありながら試合が開始された。
1回表
相手ピッチャーの球はそんなにスピードもないしキレもない。
カウント2-1からの高めの甘い球!
センター方向へのヒット!
守備がもたつく間に2塁へ走る。
よーしまずは1点!
続く打者2連続三振で4番柿崎主将の打席、守備はあれだったけど4番になるぐらいだし打撃はちょっとだけ期待できるかもしれない。
1球目、空を切るバット。
まずい。
全然期待感がないスイングだ。
タイミングも場所も全然違う。
あれじゃまぐれでも当たらない。
三振!!なんの期待感もなく1回表が終わった。
柿崎っ!!!!!
あいつにハグをしてもらう資格はない!!!
今この瞬間からあいつは呼び捨てにすることにした。
1回裏
三者三振
圧倒的な竜ケ崎君の豪送球はバットにかすりもしない。
ボールを捕る僕は命がけだけど・・・。
ベンチに戻ると竜ケ崎君の髪は腰のあたりまで伸びていた。
ざわつくベンチ内。
「どうした竜ケ崎急に髪が伸びてるぞ」
「あっ気にすんな柿崎」
バリカンで竜ケ崎君の髪を借りながら片手間に答えた。
今後のこいつの扱いはこの程度だ。
そして2回以降同じ展開が続き7回裏相手の攻撃。
2アウトを取り3人目の打者。
竜ケ崎君が投げる。
恐ろしく遅くふわっとした球。
簡単に打たれ守備が恐ろしくもたついている間にランニングホームランになった。
竜ケ崎君のもとに駆け寄る。
「限界・・・たぶん60球ぐらいが超能力の限界・・・もう何も出ない」
まじか・・・頼れるものがもう何もなくなった。
仕方がない。
ここからは僕が投げるしかない。
竜ケ崎君をライトにライトの多々良さんをキャッチャーに交代。
さぁ久しぶりのマウンドちょっと緊張する中1球目ストレート!!ど真ん中!!
思いっきり投げる。
そして多々良さんは捕れずに後ろにボールを落とした。
もうちょっと緩くか・・・と思った瞬間。
タイム!!
監督がタイムをとった。
何か策があるのか?
監督がライト方向を指さす。
ライトでは竜ケ崎君が力尽き倒れていた。
本当に限界だったようだ。
こうして9人しかいない僕たちは試合が出来なくなり没収試合。
負けとなった。