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空回り  作者: しおん
1/1

彼って…

「何やってるの?」


突然の声をかけたから、彼が驚いて振り返る。


「…いや、別に」

「そっか…」


彼の視線は目の前の馬に戻ったっきり。その瞳だけを見つめて、顔をなでてあげている。



……。

静かな沈黙は嫌いだ。

何か話さなきゃ。


「あ、あのさ…」

「別に…」


彼は私の言いたいことが分かったらしい。最後まで聞くという親切もせずに、馬を撫でている。


「私には興味なしってか!!私は馬より魅力ないんかぃ!!!!」


と、彼の首根っこでも掴んで怒鳴ってやろうと思ったけど、普段拝めない穏やかさを見せられたら、なんにも言えなかった。

しばらく横で馬を撫でる彼を見ていた。


「あのさ…」

「好きだよ」






…またか。



「はいはい、馬やら犬やら人間以外の動物達は大好きなんですよね〜だ」

「…分かっているなら聞くな」


全然こっちを見ない彼に舌を突き出した。こいつとの会話はいつも投げやりになる。


私の言いたいことは全部先に言い当てて、答えだけを出す。

その洞察力は感心するが、言葉を最後まで言わせないってのは、会話したい側にはすごいストレスが溜まる。

彼は面倒くさがりなのか、人嫌いなのか、偏屈なのか、無口なのか…。

たぶん、その全てが当てはまりそうだが。

長々と会話をすることを嫌う。

相手の言い分を聞かずに、何が言いたいのかを理解したら、必要な言葉を告げて、会話終了。

そして、近くの小動物に寄って行っては頭を撫でる。寄り道も道草も彼は大好きだ。

何をするにも人間は二の次。

一番大好きなのは自然と人以外の動物。

人間には憎悪を含んだ鋭い眼光を向けるのに、それ以外になるとすぐに頬が緩んでる。幸せそうな顔をしてる。


(いったい、何がそんなに憎いんだろ?)


いつも頭の中にふと湧いてくる疑問を、彼にぶつけたことは一度もない。

聞いてはいけない。

勝手にそう判断して、それ以外の会話をいつも探してる。じゃないと、今の2番目の質問と1番目の質問しか出てこないから。


(聞きたいことあるのになぁ…、言いたいこともあるんだけどなぁ…。)


横にいる彼は人を見ていない。

私を見ていない。

日差しを受けた水面のような瞳はただ目の前を写してる。


(果たして、彼の世界に私はいるのだろうか。)

彼は会話が嫌い。

だから、彼の外側の世界から、何も言わずに見つめるしかない。



それが、彼と一緒にいることを許される、わずかな時間だから――。

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