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19.交わされた口付け

 ノエルに、口付けられた。


 その事実だけで、アダンは頭が真っ白になって、指先ひとつ動かすことができなかった。

 そのくせ、身体がぶわりと沸騰したように熱くなって、竜としての本能がぐつりと歓喜に煮え立つ。


 そのちいさな身体に触れたくて仕方がないのに、爪を仕舞うことすらままならない有様でそれさえできやしない。

 普段アダンは、ちいさくて柔らかいノエルを何かの拍子に傷つけてしまうんじゃないかと恐ろしくて、壊れ物を扱うような手つきでノエルに触れていた。

 でも──……だめだ、今はきっと、加減が効かない。今にも身体に鱗が浮き上がってしまいそうだった。


 だからアダンはノエルにされるがままになることしかできなくて、それでも確かに、アダンはその数瞬を永遠のように感じていた。

 状況を理解するなり、身体は少しも動かないくせにぐるぐると忙しなく思考が回り初める。


 ──一体何故。どうして。

 アダンは今は何も命令していない、確かにノエルから。ノエルの意思で、……なんで、──……もしかしたら。


 都合のいいことと思いながらも、じわりと期待が滲み出すのをどうしても止めることができなかった。

 それを、ずっと、ずっと、狂おしいほどに心の奥底で望んでいたから。


 ──いつか、あれだけ夢見たように。もう叶わないと諦めていたけれど……ノエルも、心を許して、くれたんじゃ──……


 驚愕、戸惑い、ぐつぐつと湧き立つ竜人の番に対する本能と執着。そこから湧き上がるように染み出した、狂おしいほどの歓喜と幸福は──しかし、己の唇に走った微かな痛みに、すぐに遮られた。


「ッ」


 竜人は痛みを感じないわけではないけれど、傷はすぐに塞がってしまうし、その閾値は人よりもずっと高い。

 だから、普段ならば気にも留めないようなささやかなそれに──けれど、その原因が、何より愛しいちいさな黒猫が己の唇に噛み付いたことだと悟って、アダンはざっと音を立てて血の気が下がる感覚がした。


 ──……まさか。


 瞬間、反射的にアダンはすぐにノエルを引き離そうとしたけれど──ほんの数瞬、ノエルの方が早かった。


 その瞬間ノエルの脳裏に浮かんでいたのは、愛しい番への罪悪感、傷への心配と、それから──魔女から与えられた文献の中の一節。


『大量の魔力を含んだ、唯一無二の竜人の血。その血液は、魔力に耐性のない生き物が一滴でも口にしようものなら──』


 獣人の姿の頃ならいざ知らず、今のちいさなただの黒猫の姿であれば──例え一滴に満たないそれであろうとも。

 ……そうと知りながら、ノエルはふわりとルビーの瞳を緩めた。


 どんなに小さいものだって、アダン様に傷をつけるなんてことは、できることなら絶対にしたくなかったけれど。

 でも、これでノエルは漸く、元の姿でアダン様と相対することができる。


 少しの間だけ悲しませてしまうかもしれないけど、それでもノエルの声で、言葉で。

 アダン様に、愛していると伝えることができる──それに、アダン様が連日大変な思いをして準備をしてくださったという逆鱗の儀も、元の姿に戻ればつつがなく行うことができるはず。


 本当は、例え元の姿に戻るためだと理解していたとしても、臆病な自分はいざ命を落とすとなったときに、怖気付いてしまうんじゃないかと思ったけれど──不思議とそんな気持ちが全然湧かなくて、ノエルは自分でも驚いていた。


 自覚する以上に、穏やかでいながらどこか歪なこの日常を抜け出したいと思っていたのかもしれない。

 いい加減、ちゃんとノエルの愛を受け取ってほしくて仕方がなかったから。


 もう、ノエルを見て、瞳の奥に諦念と切なさを抱かないでほしい。素直に、嬉しそうに笑ってもらえたら、それだけでどんなに──……


 元の姿に戻ったノエルに、アダン様がどんな反応を示すのか、まだ分からなくて少しだけ怖いけれど。


 それでもそんな未来を夢想しながら、ちいさな黒猫は慰撫するように、傷付けてごめんなさい、という気持ちを込めて──……躊躇いなく、アダンの唇に、微かに滲む血を舐めとった。


 ──アダンが、何かを言う暇もなく。ノエルが、何かを思う暇もなく。

 魔力耐性のない生物にとっては猛毒と言ってもいい竜人の血がすぐに全身に回り、ちいさな黒猫の意識を刈り取っていく。


 ぐわりと歪んだ意識と視界の中で、ゆっくりと鼓動がちいさくなっていく。

 まるで無機物のように、傾いだ軽く身体が宙を落ちて──……ぽとりと音を立てて、何かに受け止められた。それが何なのかすら、もうノエルには分からない。


 ……それでも、ノエルが何も分からなくなるその時まで。確かに、愛しい人の匂いをすぐそばで感じていたノエルは──馬鹿みたいに幸福だった。




「────…………、ノエル?」













 喉をぐるりと覆う赤い色の蔦を苛立たしげに爪で掻きながら、魔女はストロベリーブロンドの髪を払って、重いため息を吐いた。

 未だそれに声を奪われたときの苦痛は魔女を苛んでいたけれど、こうも日が経てば慣れるというものだ。

 長い時を生きる魔女は、苦痛を逃し慣れる術を知っていたし、それはあの竜王も承知しているだろう。


 だからこれはあの時に竜王がのたまった「必要以上の危害」に含まれない、……というのは腑に落ちないけれど、そもそもあんなものはあの男の尺度ひとつなのだ。

 あの呑気な黒猫はそこまで思い至らなかったようだけれど。


 とはいえ、正直あの時に命が助かったのは、魔女にとっては奇跡に近かった。

 魔女は長い時を生き、獣人をも破滅に導けるほどの力を持ちながらも、種族としては普通の人間だ。

 だから獣人を束ねる王に支配される存在ではないし、その命令だって意味を成さない──……それでも。


 初めてまともに対峙したあのとき、骨身に染みて理解した。

 力ある獣人を束ねる王として生まれた存在の、憎悪を、怒りを買うというのがどういうことなのか。


 死を覚悟して、どうせならなんとかして最期に一発呪いでも振り撒いてやろうと思っていたけれど──……まさか。

 あの剥き出しの刃のような、この世の全てをひれ伏させるような殺気を放つ男に、あの黒猫が擦り寄っていくとは思わなかった。


 ──……死ぬほど不覚だけれど。認めたくないけれど、いっそ舌でも噛み切ってやったほうがマシだと思うくらい屈辱だけれど。

 ……庇われた、という事実を、認めないわけにはいかない。


 ここに来てから何度目かも分からない行儀の悪い舌打ちをして、魔女はぐるりと自身が閉じ込められている部屋を見回して唇を歪めた。

 どこで見つけてきたのやら、竜の血を複合した魔術封じの古代魔術で念入りに覆われたこの部屋には──見事なほどに何もなかった。


 いくら嘘を吐こうと魔女のように魔力を失うことはない竜王は、それでも番に誓ったことを破るようなことはできなかったらしい。

 この部屋に放り込まれてから、魔女はあの竜王が宣言した通り、尋問や拷問を受けることもなければ、身体的に傷付けられることもなく──ただ。


 見渡す限り真っ白で生命維持に必要な最低限以外のものは何もなく、音も聞こえず、毎日全く同じ内容の僅かな食事が転送されてくるだけの部屋に……誰かと会うことも一度としてなく、己の声すら聞くことも叶わず、ずっと閉じ込められて無為に息をしている。


 ──……人間の醜さをこよなく愛する魔女が一番堪え難いのは、退屈だ。変化の乏しい長い時間というのは、否応なく人を狂わせる。

 最初は耐えられたとしても──これから何十年、何百年。


 魔女の長い寿命をこの退屈を固めたような部屋で迎えるとしたら、間違いなく精神的に狂うのが先だった。

 当然、喉を覆う蔦の効果か自死も許されることはない。


 そこに、あの竜王の、どれほどに時間をかけてでも魔女に報復をするという執念が透けて見えて、魔女はその瞬間粟立った背筋を宥めるように腕をさすった。


 かつては、竜人のことも番のことも、果ては己のことすら何も知らない無知な相手に振り回される竜王に嘲笑半分の憐れみを抱いたこともあったけれど──アレを見てしまっては、同情されるべきはあの執着を余すことなく向けられる、あの呑気な黒猫の方だろう。


 ちょろちょろと足元をうろつくせいで何度踏みそうになったか分からない、あの小さな黒い毛玉を脳内に思い描いて、魔女はこの部屋に放り込まれてからずっと己を苛んでいる嫌な予感にまた大きなため息を吐いた。


 アレに逆鱗の儀の詳細や、果ては元の姿に戻る方法を必要ない方まで教えてしまったことを、魔女はらしくもなく、今になって激しく後悔していた。

 臆病なくせに向こう見ずなあの毛玉は、魔女のことやら竜王への罪悪感やら、こちらからしたら塵芥のようなことを気にして、何とかして元の姿に戻ろうと馬鹿なことをしているに違いない。


 あの竜王の手元にあって、それがやすやすと成功するとは思わないけれど──……万が一、いや億が一を思うと、魔女は頭痛がして止まなかった。


 どうせ教えるなら、あの時全て言ってしまえばよかったのだ。

 ……例え、元の姿に戻るために命を落としたとして。それがよしんばうまくいったとして。



 ──……その場ですぐに目覚めるとは限らない、と。










「──ノエル?」


 ぽとりと、酷く軽い音を立てて、愛しい番が手の中に落ちてきたから。アダンは当たり前にそれを受け止めて、あたたかくて柔らかいそれを覗き込んだ。


 ノエルは、目を閉じて、動かない。そのちいさな口元には、ほんの少しだけ、赤いものが。

 ああ、汚れてしまっているな、と思って、アダンはそれを、何故か酷く温度を失った指先でやさしく拭った。


 ノエルが、不快にならないように。ノエルを、傷付けないように。


 何度も。何度も、何度も何度も何度も。


 それで、綺麗になったから、アダンはノエルを起こそうとした。だって、まだチーズを食べてない。ノエルは食べたがっていたはずだから。


 その後は、嬉しそうにルビーの瞳を輝かせるノエルを眺めながらご飯を食べて、また一緒に、あたたかな寝床につく。

 ここに来てからずっとそうしていたように。いつも通りに。


「──……ノエル、眠ってしまった? でもだめだよ、起きて。まだご飯を食べてない」


 いつものように、爪が出ていないことを、鱗が浮き上がっていないことを、何度も確かめて。

 傷付けてしまわないように、優しく、優しく番に触れる。


 ノエルが不快にならない程度に、それでも何度も揺らす。揺らす。──起きない。


 何でだろう、とアダンは首を傾げた。いつもなら起きないにしても、アダンが少し声を掛けると眠たそうに身体をよじって、それから可愛く甘えてくれるのに。

 疲れているのかな、と思って、でも起こさないと、と思考がループする。起こさないと。だって、ノエルがお腹を空かせたらかわいそうだから。だから。


「ノエル。起きて。──……ノエル。ノエル。ノエル。…………ノ、エ、……?」


 ぼた、と赤いものが手の甲に落ちてきて、アダンは首を傾げた。とりあえずノエルを汚してしまわないようにと身体を起こして、ぺたぺたと己の顔に触れる。

 鉄錆の臭いが鼻をついて、ああこれは血だな、と悟る。


 別に、傷を作るようなことをした記憶はないのに。何故か少しだけ傷を負った唇も、とっくのとうに塞がっているはずなのに。


 不愉快だな、なんだろう、と顔を辿って、それが己の鼻から出ていることを悟り、尚更アダンは首を傾げた。

 人間はふとした拍子に鼻の粘膜を傷付けて血が出ることがあると聞くけれど、竜人にはそんなもの無縁のはずなのに。


 ノエルが血に触れたらどうするんだ、と憤る気持ちを抱いて、あれ、なんでだめなんだっけ、とまた反対側に首を傾げた。


 だって、危ないから。……どうして危ないんだっけ。


 ──……だって、竜人の血は。



「──ああ、そうか」


 すとん、と理解が胸に落ちた。


 ──そうか、ノエルは死んだのか。


 アダンを謀り、その血を舐めて。手を施す暇もなく、死んでしまったのか。


 まだほのかにあたたかな温度を保つ、柔らかいこれは、ただの抜け殻なのか。

 ──だから。あの時のようにあたたかくて柔らかいのに、その鼓動を感じないんだな。


 そうと理解しながら、手慰みのようにその柔らかな毛を撫でて、アダンはゆっくりと思考を巡らせた。


 魔女の使い魔が、竜人の血について、知らないわけがない──……じゃあノエルは。

 自ら死を選ぶほどに。大切な魔女の安全を引き換えにしてすら。


 ……俺とずっといっしょにいるのは、いやだったんだな。そうか。


 あれ。じゃあ。──もう、なにもいらないな。この世にあるすべて、なにもかも。いらないな。


 うん、壊そう。


 ぼたぼたと留まることを知らず溢れ続けていた血液が、主の意思に従ってふわりと重力を無視して浮き上がる。小さな雫ひとつひとつが、寄り集まって、凝っては離れて。

 何をしようとしているのかアダンは自分でも分かっていなかったけれど、でもどうでもよかった。なにもかも壊せるのであれば、もうそれでいい。


 ああそうだ、アダンも人の姿じゃやりにくい。ノエルの抜け殻をそっと横たえて、アダンはゆらりと立ち上がった。


「…………待っていて」


 ──全部、壊して。何もかも壊して。……アダン自身すら。そうしたら、そうしたら。


 …………──そうしても。……次なんて、もうない。


 ──アダンが声をかけたのに、ノエルは動かない。いつもみたいにむず痒そうに、口元や髭を動かして、応えてはくれない。

 当たり前だ、もう死んでいるのだから。これは抜け殻なのだから。


 あんなに、急だったのに、何も、アダンの望む関係なんて築けなかったのに。


 気がつくなと、目を逸らせと、どこかで叫ぶ声がする。なのに、できない。

 だって、ノエルはアダンの運命の番だから。番から、目を逸らすことなんて、できるわけがなかった。……気がつきたく、ないのに。



 ああ──もう会えないんだな。



 ひゅぅ、と喉がおかしな音を立てた。



「──ぅあ、」



 ──その日。地の果てまで届きそうな竜の絶叫が、国を揺るがし。獣人達は、恐れていたことが起きたことを悟って震撼した。


 余程閉鎖的な環境で育たない限り、この国で知らないものはない──本能に刻まれた番と出会えなかった竜人は、番に焦がれるあまり、気が狂い国に厄災をもたらす狂獣と化すのだということを。


 その国中に響き渡った声を聞くことがなかったのは──……命の灯火が尽きた、ただ一匹の黒猫のみ。




 ……ふわりと、自身の喉を覆っていたはずの鮮烈な赤色の蔦が溶けるように形を失い、魔女はそのアメジストのような瞳を見開いた。

 思わず喉に手をやって発声するも、問題なく声を出すことができる。


 何故、と考え、そう間も無く辿り着いた答えに魔女はぶわりと背筋が粟立つのを感じた。

 あの毛玉の前では耳障りのいいことを言っていたけれど、あの執着の権化のような存在が番を連れ去った魔女を、どうあろうと許すはずがない。


 だとすれば、これは──……答えを示すように、魔女の喉を戒めていた蔦は赤い幾粒もの雫へとその姿を変え、何かに導かれるように部屋の壁へと消えていく。

 まるで──……必要になったから集められた、とでも言うように。


 そして次の瞬間──……耳の良い獣人ではない魔女さえにも劈くように響いた、天を割るような絶叫。

 びりびりと空気を揺らすそれに思わず呻いて、魔女は思わず冷たい白い壁に遮られた天を見上げた。


 もはや悟りたくないとさえ思うのに、聡明な頭脳がそれを許してくれず、現実をその脳裏に刻み込んでいく。背筋を冷たい汗が幾筋も伝わった。


 ──……ああ、もう。本当に、面倒なことになった。


 国を間接的に滅ぼした魔女って、師匠を超えたことになるのかしら、なんてらしくもなく現実逃避をしながら──……轟音と共に亀裂の入り始めた部屋に、魔女は頬を引き攣らせた。


 とりあえず、今は身の安全の確保が最優先だ。……ここから抜け出したとして、その後生き残れるかどうかは置いておいて。

 久しぶりに声を出すとは思えないほどに朗々と、魔女は高らかに詠唱した。


「『我は尊き魔女。一切を手にする者。──今ここに、我が身に守護を賜らん』」


 詠唱が終わった途端に崩れ落ちた牢の瓦礫から間一髪身を守り、魔女は久しぶりの外界の空気をあまり良いとは言えない気分で吸い込んだ。

 少なくともその大半は砂埃だ。そして記念すべき脱獄からまず耳にしたのは、轟音と悲鳴だった。


 叫ぶように獣人から獣人へ、遠吠え、鳴き声、それぞれの方法で伝えられていくのは──……全ての獣人が最も恐れる天災。


 ──……とうとう、獣人の王が狂獣と化した、と。


 先日の記事に乗った一件から、国民達も警戒して、避難の準備をしていなかったわけではない。

 けれど竜人の乱心というのは、それこそ自然の大災害のような──いくら準備を念入りにしていようと、いつ来るか分からないと覚悟していようと。

 その全てをあっけなく飲み込んでしまうような、圧倒的な天災なのだ。


 ただ震えながら、足掻きながら、それでも訪れる運命を受け入れるしかない──本来であれば。


 けれど魔女は、魔女だけは。この世で唯一、それを鎮める方法を知っている。


 ──こんなしち面倒臭いこと、本来であれば絶対にごめんだ。

 別に魔女はこの国に大した思い入れなどないし、自分が関わったことで誰が破滅しようと知ったことではない。


 けれど、恐らく理性を失ったあの竜人が、それでも真っ先に自分だけに留まらず、魔女という存在を狙うであろうことは予想がついたし──何よりも。

 本当であればもう声色さえ思い出せないような遠いしわがれた声が、魔女の背中を押した。


 ──縁を大切に、魔女らしく生きな。


 うるさいわね、とそれを振り払って、魔女は砂埃に覆い隠された夜空を見上げた。

 ──それを切り裂くように。空気を切り裂く鋭い轟音を響かせながら、鮮明な夜空を描くようにして、巨大な何かが旋回して舞い踊るように天を駆けていく。


 ぽたりと、魔女の頬に何かが滴り落ちて、それが赤いいろをしていると気がつき眉を顰めた。

 何者にも頭を垂れることはしない、孤高で傲岸不遜な魔女。それでも──どうしたって、背筋を這う畏れを、自覚せずにはいられない。


 流れ星のように黄金の軌跡を描き、己の血を大地に撒き散らすそれは、馬鹿みたいに美しい形をした──破滅だった。


 自由気ままに生きているように見えるけれど、実は意外と戒律が多い魔女にとって、これは大きな禁忌なのだけれど──……仕方がない。

 これはもう、魔女一人でどうにかなる問題ではなかった。死ぬほど面倒だけれど背に腹は変えられない。


 瞬時に、魔女はその嫋やかな指先を宙でひらりと踊らせた。



「──……さぁて、一体いつぶりになるのかしらね……──魔女集会と洒落込もうじゃない」



 己を鼓舞するように、背筋を這う畏れを塗り替えるように。

 魔女は魔女らしく、傲岸不遜で不敵な笑みを浮かべ、アメジストの瞳で天を睨み上げた。


ここまで読んでくださってありがとうございます。もし応援してやってもいいよ!と思ってくださったら、↓の☆☆☆☆☆を★★★★★にしていただけると作者が泣いて喜びます。

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