在家の人びと
仏に帰依したてまつる
ブッダン・サラナン・ガッチャーミ
法に帰依したてまつる
ダンマン・サラナン・ガッチャーミ
僧伽に帰依したてまつる
サンガン・サラナン・ガッチャーミ
真理に目覚めた人――仏と、そのさとった法と、仏の教えを信じて修行する人々の集まり――僧伽、この三宝に帰依を誓うことが仏弟子としての生活の始まりである。
在家の男性信者はウパーサカ[優婆塞]、女性信者はウパーシャー[優婆夷]と呼ばれ、不殺生[生きものを傷つけない]、不偸盗[盗まない]、不邪淫[よこしまな性関係を持たない]、不妄語[うそをつかない」、不飲酒[酒をのまない]
という五戒を守って日々の生活を送ることを誓った。さらに、毎月八、十四、十五の斎日に集まり、五戒に加えて三つの戒――正午から翌日の日の出までの間に水分以外の食事を摂らない、装飾品・香水をつけない、快適な寝具には寝ない、という八斎戒を守った。
そして釈迦牟尼世尊は、この在家の人々が暮らしの中で持った疑問にやさしく応える。
ヴァンサ国のコーサンビーへ向う途中に、スンスマーラギリという町があった。世尊がその郊外のベーサカラー林の鹿野苑に入り、安居の期間を過ごしたときのことである。
仏陀が到着したという報せはたちまち知れ渡り、町の人々は誘い合って世尊のもとへ向い、法を聴いた。その中に、ナクラの父ナクラの母と呼ばれる老夫婦がいた。夫妻は初めから世尊に親しみを感じていたが、法話を聞いているうちに深く信仰し、生涯変わらぬ信者となることを誓った。そして翌日、世尊を自宅に招いて供養をし、食後にナクラの父が云う。
「私の家内は幼い頃からの知り合いで一緒になりましたが、それから心の隅にも貞操の曇りを宿したことはありません。何卒この世において相見ることが出来たように、来世も相見ることが出来ますよう、法を御聞かせ願いたいと思います」
夫のかたわらに妻は寄り添っていた。共に白髪が生えるまで慎ましく生き、慈しみあってきた夫婦の長い歳月が垣間見えるような、暖かなふたりの様子だった。
「信仰を同じくしなさい。戒を同じくしなさい。布施の心を同じくしなさい。智慧を同じくしなさい。さすれば、来世相見ることが出来るであろう」
世尊は教え、のちにこのふたりを互いに信じあう夫婦のかがみよと讃えたのであった。