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9話「道を違えることは」

「――ということで、ベルヴィオは生涯拷問刑に処されることとなったようです」


 あるありふれた日、私は、夫となったアデンスからベルヴィオのその後について聞いた。


 彼は散々揉めた果てに父親でもある国王を殺し、さらには、自分を待ち続けてくれていなかったエルフィのことも殺めたのだそうだ。


 エルフィだけならまだしも父親までとは、なかなか恐ろしいことだ。何が彼をそこまでさせたのだろう、なんて、どうでもいいことのはずなのについ考えてしまう。


「そうですか……驚きました、まさか拷問刑だなんて。最高刑ですよ」

「無理もないでしょう、国王を殺めたのですから」

「それはそうですね。国王を殺めてただで済むはずもない――たとえ実の息子だとしても」


 死なせてももらえない。

 一生苦しむことを求められる。


 それが拷問刑だ。


「悲しく思いますか?」


 アデンスが尋ねてくる。


「いいえ」


 私は首を横に振った。


「……もう二度と会わなくていい、そう思うと爽やかな気持ちです」


 ゼオルガート国に来て、アデンスと結婚して――思い返せば嬉しいこと平和なことばかりではなかった――この国では頻繁に魔物災害も起きるし。


 でも、それでも、あの国へ帰りたいと思ったことはない。


「爽やか、ですか。少し意外です」

「変ですよね……」

「いえ、そうではなく」

「え?」

「そう思われるのは当然だと思いますよ、あのような扱いを受けていたのですから。ただ、意外とさらりと仰られたので、そこが意外だったのです」


 言って、アデンスは柔らかく頬を緩める。


「けど、そういったところも含めて貴女が好きです」


 私は英雄となっている。

 次期国王の妻であることも事実だけれど、ある魔物災害の時に魔法を使い戦い敵を撃退したために、国民含めて皆からは『火炎の聖女おとめ』と呼ばれているのだ。


 人生とは分からないものだ……英雄扱いされる未来があるなんて、そんなこと、欠片ほども想像していなかった。


 でも誰かのために力を使えるのは嬉しい。


 魔法が使えても自分のためだけに使うのでは身勝手な気がして。けれどもそれを自分でない他の誰かのために使えたなら、世に貢献できているような気がして、気が楽になる。この力の持ち主が私で良いのだ、と思えるのだ。


「アデンスさん、私はこれからもこの国で生きてゆきます」

「良い覚悟ですね」

「ありがとうございます。恐らく、貴方と道を違えることはありません。私は……私は、この国を護るために戦い、そうやって生きるのです」


 あの国へは戻らない。


 こここそが私の居場所。

 だからここで生きてゆく。


 愛しい人、アデンスと共に。


 きっとそれが運命だったのだろう――私という人間の。



◆終わり◆

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