7話「この国に損害をもたらしたということでもある」
「ベルヴィオ、お前は身勝手な都合であれだけの才を持った女性を手放した。それはこの国に損害をもたらしたということでもある。……分かっているな?」
今、ベルヴィオは、父親でもある国王からお叱りを受けている。
ルージュは偉大な力を持つ女性だった。だからこそ国王は頼んでルージュと息子をくっつけたのだ。そう、すべては国の未来のために。国王はすべてが順調に進んでいると思っていた。しかしベルヴィオが自分勝手にルージュとの婚約を破棄し国王が抱えていた未来予想図を叩き壊したのである。
そんなことをされて国王が怒らないはずがない。
「しかも、侍女なんぞに情を入れているそうじゃないか」
「父上! エルフィは素晴らしい女性です! 確かに侍女ですが、出ゆえに侍女に収まっていただけで、本当は王家に入るに相応しいくらいの魅力がある女性です!」
「馬鹿を言うな。くだらん女に流されおって」
「くだらないことはありません! エルフィの素晴らしさは自分が一番知っています。父上も彼女と会ってください! そうすればきっと理解していただけるはずです!」
刹那、国王は一度強く足を踏み鳴らした。
「愚かな王子よ、その侍女とは二度と会うな」
そこにあったのは怒りそのもの。
「なぜ分かってくださらないのです! エルフィは、エルフィは……王妃になるに相応しいほどの女性です!」
「くだらん!」
「なっ……」
「反省していないのか? そのようなことを言えるとは、まだ反抗的な態度をとることができるとは」
こうしてベルヴィオは国王から『エルフィと会わないこと』と命令されてしまった。
しかし、会うなと言われれば言われるほど会いたくなる、それが人間の性というもので――数週間は我慢していたものの我慢できなくなったベルヴィオはついにエルフィと夜中に二人で会ってしまう。
「ああ、ずっと会いたかった……! エルフィ……!」
「ベルヴィオ様ぁ~! 寂しかったですぅ! ううっ、嬉しくて涙がっ……でもお父様も酷いですね、真実の愛を壊そうとするなんてぇ……」
その夜、二人は禁じられた恋に酔いしれた。
が、会っていたことはすぐにばれてしまって。
「ベルヴィオ! 侍女と会っていたそうじゃないか!」
「……申し訳、ありません」
「会うなと言っただろう、もう忘れたのか?」
「し、しかし! 父上、真実の愛は誰にも邪魔できないのです! そう、たとえ父上であったとしても!」
あまりにも主観的過ぎる主張に呆れ、国王は大きく溜め息をつく。
「そうか分かった。ならいいだろう。お前を拘束する、女は追放する――もうそれしかないようだな」
結果、ベルヴィオは軟禁され、エルフィはくびになり生涯入城禁止となった。
「おい! 出せ! ここから出せ! エルフィに会いに行くんだ! 出してくれ!」
「それはできません」
辛うじて四肢の自由はあるベルヴィオだが、それゆえかまだ自己中心的なところを残している。
強く言って圧をかければ周囲を言いなりにできると思っているのだ。
彼にはもう既にそのような権力はないというのに。
「王子閉じ込めるなんて罪だぞ! お前死刑になりたいのか!」
「罪ではありません、陛下からの命令ですので」
荒ぶるベルヴィオを見る見張りの者の視線は冷ややかだった。
それはまるで必死になってわがままを通そうとしている子どもを一瞥する通行人の視線のようだ。
どこまでも冷たい、愚者を見るような、そんな目つき。