6話「無事到着」
馬車のような乗り物に乗ること数時間、ゼオルガート国に無事到着した。
いざ降りてから気づいたのだが、私たちが乗っていた乗り物にはかなり護衛がついていたようだ。
まぁ、国王となるであろう人が乗っているのだから、当然と言えば当然なのだが……少しも気づいていなかっただけに、その事実に気づいた瞬間は驚いた。
降車後は徒歩。
彼に誘われ歩き出す。
「ではこちらへ」
「あ、はい」
「段差がありますよ。足もと、お気をつけて」
「あっ、本当ですね! 危なかったです。ありがとうございます、危うく転ぶところでした」
ゼオルガート国はいたって普通の国だった。
全土を目にしたわけではないからすべてを知ったわけではないけれど、ただ、今視界に入る範囲はかつて私がいたあの国とおおよそ似たような感じだ。
よく晴れていて、上には青空がどこまでも広がっている。
「今日は快晴ですね」
城へと続く石畳の道を歩きながら意味もなく呟く。
「そうですね、しかし週末からは雨ですよ」
するとアデンスはさらりとそんな言葉を返してきた。
「そうなんですか!?」
「はい。確かそういった予報だったかと」
近く雨が降るなんて嘘みたい。
だってこんなに晴れているのに。
空ってそんなに気まぐれなもの? なんて思ってしまったり。
「へえ……! お詳しいのですね」
一歩前の位置を保ち背筋をぴんと伸ばしながら先導してくれるのはアデンスだ。
彼の背は凛としている。
真っ直ぐ空へと伸びていて。
ああ、こういう人こそ、真の意味で国民の上に立つに相応しいのだろうな――そんなことを思わせてくれるような背中だ。
「いえいえ私の力ではありません。王家に仕えている気象予報士がそう言っていたのですよ」
「気象予報士!? 王家に仕える職業とは思えませんけど……」
周囲には護衛の者たちもいるが、私と彼が会話することを悪く言ったり干渉してきたりすることはない。
彼らは、自分たちはあくまで壁、と言わんばかりに黙々と歩いている。
「はは、珍しいですかね」
「そう思います」
ちょうど門を通り過ぎた。
鋼鉄の柱を組み合わせたような無機質で強そうな門を通過、しかしまだ足を止めずに歩いてゆく。
城の入り口が段々近づいてくる。
「ですが実際この国にはいるのです。ま、公務やら何やらありますから。少しでも先の天候が読めれば非常に助かるものなのです」
「そうなんですね。でも確かに、天気がざっくりでも読めれば便利そうですね。雨が降るにしても心の準備ができますし」
「ええそうです。急に濡れるのは嫌ですからね」
「ああ……それは確かに、じめじめして嫌ですよね……」
雨に濡れて嬉しい人は滅多にいないだろう。
子どもならともかく。
「ルージュ様、もうすぐ城内に到着しますよ」
「あれが扉ですか?」
「ええそうです、あそこから中へ入ります」
「天使がついてる……凄い……」
「ああ彫刻ですか」
ゼオルガートの城を見るのはこれが初めてだが、非常に立派だ。
主な素材は石であり重厚感のある城。しかしその一方で、扉や窓枠といった細かい部分には繊細さを感じさせる意匠。生命が、歴史が、宿るような彫刻やら何やらによって彩られた城は、単なる石でできた大きな建物とは一味違った外観となっている。
「この国では盛んなのです、彫刻」
「あ、そうなんですね」
「あちらの国ではあまり見かけませんでしたか?」
「そうですね……多分ないわけではかったのでしょうけど、でも、それほど目にはつかなかったような……そんな気がします」