人間の私とスライムの彼女の日常!!
◇ = 主人公:リザ視点
◆ = ヒロイン:オータム視点
となります。
-はじめに-
この物語はとある物語の二部のような感じになりますので、これだけでは分からないところも出てしまうかと思います。すみません。
勿論、第一部を読まずとも楽しめる作品にしているつもりではありますけど……。
詳しくは後書きをお読みください。
◇
私の名前はリザ・ウィンターローズ。
ここオルレリアン王国のルージェン地方でハンターギルドの受付嬢として働いている人間の女性。
これまでここルージェン地方はどちらかというと平和な地方であったが、いつ現れたのか? 何処から来たのか? 1匹のとあるスライムの存在でその何もかもが変わってしまった。
これまでスライムと言えば最弱でそれなりの武器さえあれば子供でさえ倒すことができるというのが常識だった。
ところがある日、そんな最弱な筈のスライムにルージェン地方でもそこそこの知名度を誇るハンターパーティが逆に狩られてしまったという情報が舞い込んで来てた。
それからはこの地方は……。
いや、この国はてんてこ舞いの上に狂乱に陥ることになってしまった。
最初はそんなこと誰も信じなかった。
スライム如きに人間が狩られるなんてあり得ない。
誰もがそう信じていたから。だから、その情報を持ってきたハンターを私を含めてギルドにいた全員がせせら笑ったくらいだ。
ところがその情報を持ってきた者があまりにも必死すぎるために、ならば一応ということでギルドでも抜群の知名度を誇るハンターパーティが確認に行ったところ、いつまでも帰って来ない。
心配になった私達ギルド職員は護衛の兵士を連れて今度は自分達で様子を見に行くことになった。
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悪夢だった。私達が現場に着いたその頃、スライムは彼らを食す(溶かしている)最中だった。
スライムはほんのりと白いために中身が分かる。
その為彼らがどのように殺されたのかは一目瞭然。
全員心の臓を恐らくは触手で一突きで殺されたものと思われた。
「ひっ……」
思わず声を出してしまった瞬間、そのスライムがこちらに振り向いた気がした。
感情なんてない筈の真っ白な楕円の目が狂気に満ち満ちている気がした。
その場にいた全員、咄嗟にそのスライムの前から逃亡を図った。
相手はこのハンターギルドでも最強と言っても過言ではない程の腕利きハンターを瞬時に殺せる程の者だ。
それなのに全員生きて帰れたのは、スライムがわざと何もしなかったのか、最早スライムにその気がなかったのか、それとも私達が気が付かれたと思っていただけで実はスライム側は気が付いていなかったからなのか。
恐らくは前者だろう。
私達は敢えてあのスライムに見逃されたのだ。
自分の恐ろしさをこの地方、引いては国に知らしめる為の駒として……。
私達は恐怖のあまり、無事にギルド前に着いてから全員その場・地面に膝を落とした。
今でもあのスライムの姿がしっかりと目に焼き映って残っている。
異質なスライム。そのスライムのことはすぐさまルージェン地方で噂になった。
それでも信じない者は一定数いた。中でもブローリアという名の奴隷商人。
彼は私達の忠告なんて全く聞かず、わざわざスライムが出没しやすい場所を通って奴隷を別の地方へと売りに行こうとし、案の定スライムの餌食とされて帰らぬ者となってしまった。
幸いなのは奴隷達だろう。
スライムが殺したのは奴隷商人のブローリアだけ。
粗末な馬車に乗せられていた奴隷達には目も呉れず、スライムは用が済むとさっさといなくなったと、その馬車に乗せられていた奴隷の1人からそう聞いた。
ただ、奴隷商人ブローリアが持っていた物(隷属の首輪や金貨、他の道具)を何故かスライムが大切そうに持って行ったという証言には引っかかるものがあった。
そんな物スライムが何に使うというのだろうか。
その目的が分かったのは、奴隷商人ブローリアの死から数ヶ月のことだった。
私は見てしまったのだ。件のスライムが人間の、まだ少女と言っていい年齢の女性に隷属の首輪を嵌めさせた上にそれにリードを繋いで散歩させているところを。
不思議なのは少女はそんな扱いをされているにも関わらずに嬉しそうにしていたことだった。
隷属の首輪には感情を奪ったり、洗脳したりするような効果はない。
あれはあくまで奴隷の逃亡や性についてのあることを復活させるだけの効果を持ったものだ。
それなのに嬉しそうな顔。……ということは少女は自ら望んでスライムに自分を売ったということになる。
私はその光景が忘れられず暫くの期間、悩むことになった。
そこから更に数日後。
スライムについての新たな知識がルージェン地方中に広まった。
当然大パニック。特に女性にとっては、それは嬉しいことたっだが為に大騒ぎになった。
地方領主は勿論、女性達にスライムと接することを禁止したが、そんなことで彼女達が止まる筈がなかった。
やがてそれは別の地方へと広まり、ついには国中に噂が噂を呼んで広まっていった。
そんな中で唯一、この国の国王が良かったと思うことはこの国は島国であることだろうか。
もしも大陸続きの国の中の1つであったならば、他所の国から散々非難されて今頃はこれよりも大変な事態になっていただろう。
とはいえ、他所の国に広がるのも時間の問題のような気がするけども……。
『これからどうなるんだろう……』
そんな風にぼんやりと考えながら歩いていたのが悪かった。
私は私の背後に件のスライムとは違うが、スライムが私を狙っていることを感じ取ることさえもできなかったのだ。
**********
目を覚ますと、そこは知らない場所だった。
困惑してきょろきょろ辺りを見回すと、例えるならギルドにある地下牢のようなところ。
だけどそれよりもしっかりしていて、どう足掻いたところでここから逃亡なんてできそうにない。
嫌な予感が頭によぎる。
スライムに捕まった可能性。
件のスライムには仲が良いスライムが幾匹か確認されており、そのスライム達は件のスライムから知識か何か授けられるのか、通常のスライムよりも格段に賢く、そして件のスライム同様に強いことが特にルージェン地方では知れ渡っている。
この場所はどう考えてもその件のスライムから知識を得たスライムが作った場所だろう。
だとしたら……。
"ぞっ"と背筋が冷える。
そんな時に感じる気配。
それはやはりスライム。
私をじっと見て、触手を器用に使って地下牢っぽい場所の扉に鍵を差し込んで扉を開けて中へと入ってくる。
「こ、来ないで……」
"ガタガタ"と震えが止まらない。
来ないで欲しい。
が、スライムにとってそんなものはお構いなし。
私にゆるゆる近づいて来る。
「それ以上近づいたら舌を噛んで死んでやるから」
言うと、一瞬だけそのスライムは止まったものの、次の瞬間には触手で私の手足を掴んで私の自由を奪い、更に口の中に触手を突っこんできて私の死を阻止させてきた。
やはり知恵が回るらしい。
こちらの言うことをしっかり理解しているのがその証拠だ。
つまり、このスライムは件のスライムから知恵を授かっているスライムであるということが確定というわけだ。
「んっ、んんんんんん~~~」
触手を口に突っ込まれているために喋れない。
しかも手足を掴まれているために何の抵抗もできない。
今の私にできるのは精々心の中で自分の無事を祈ることだけ。
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祈りは通じなかった。
この後私はスライムによって大切なものを奪われてしまった。
**********
1年後。
時が経つのは意外と早い。
私がギルドに、どころかあまり外に出れなくなってからもう1年も経つ。
「最初は辛くて毎日泣いてたんだけどなぁ……」
それも2週間程度のことだった。
それが過ぎると、スライムが実は何気に私に優しくしてくれることを感じ取り、それからスライムのことが気になり始めて、その実態を理解しようとするとスライムと心が通い合うようになったのか、スライムの言葉が分かるようになった。
思念というのだろうか?
スライムの言葉が頭の中に直接響いてくるのだ。
そして私はそれに対して口での返事。
第三者が見ているとおかしな光景に見えるだろう。
だけど今は……。この国の多くの女性が私と同じ状況にあると思う。
スライムと会話する女性達の姿があちこちで見られる筈だ。
"ぼ~っ"としていると今日も地下牢に私を捕らえたスライムこと、オータムがやってくる。
私がウィンターだからオータム。そう名付けさせてもらった。
この世界ことティロットには東ティロット語と西ティロット語の2つがある。
この国で使われているのは西ティロット語。
西ティロット語ではウィンターは(冬)を表し、オータムは(秋)を表す。
我ながら安直だと思ったが、オータム自身はそれで喜んでいたのでいいことにしようと思う。
私の傍に寄って来るオータム。
私の頭を軽く何度か撫でた後、触手を使って私のことを抱き締める。
どうやらこのスライム、私のことを甘やかすのが好きらしい。
なので私もそれに応える。
オータムを抱き締めてキス。
そうするとほんのりとオータムの頬が紅に染まるのが可愛い。
ちなみにオータムも件のスライムも女の子であることをオータムとの会話の中で知った。
つまり私達は(リリィ)女の子同士の恋愛者のことをこの世界ではそう呼んでいる。
「ねぇ、オータム」
『どうしたの?』
「貴女の友達のナツミだっけ? ……のことなんだけど」
私が件のスライムの名を口にするとオータムは待ってましたとぱかりに自分の横に置いてあった袋の中からとある物を取り出した。
実はずっと気になっていたりはしたのだ。
オータムがここに入ってくるときに見慣れない袋を持っていたのが見て取れたから。
「それ、隷属の首輪……だよね」
『ナツミが新たに奴隷商人を殺して手に入れたから、一番仲がいいワタシにくれたの』
"ひくりっ"と自分の口の端が動くのが分かる。
オータムはそれを私に嵌めるつもりだ。
仮に抵抗したところで触手で私を動けなくさせてから嵌めるだろう。
もはや確定事項。
私は軽くため息をつく。
「はぁ……っ」
『抵抗しても良いよ?』
「ううん、しないよ。オータムのモノになるんだったらいいかなって」
『……なんていうか、リザもさ』
「うん?」
『ナツミのパートナーみたいなところあるよね』
「その子ってコハルちゃんだっけ? どういうこと?」
『無意識のスライム誑しってことだよ!!』
オータムが私の首に隷属の首輪を嵌める。
これで私はオータムのモノ。
不思議と満更でもない。どころか嬉しいなって思う自分に少しだけびっくりする。
そんな中でさっきよりもほんの少しだけ力強く私を"ぎゅっ"と抱き締めてくるオータム。
「オータム。ちょっと苦しいよ」
『ごめん。でも無理。リザが可愛すぎて暫く離れられない』
「暫く。なの? じゃあいつか私を解放するってこと?」
オータムの言う暫くは今現在、私を抱き締めてることだって分かってる。
分かってるけど、敢えてからかってみようと思った。
そしたらきっと、私が嬉しくなる言葉をオータムはくれる筈だから。
『そうじゃないよ。リザのことは絶対解放しない。リザはずっとワタシのモノだよ』
ほらね。やっぱりくれた。
幸せ……、だなって感じる。
まさか自分がスライムに夢中になるなんて1年前は考えもしなかったけど。
でも今はオータムがいないと寂しい。オータムも私を『可愛い』と言ってくれるけど、私もオータムが可愛くて仕方ない。
「ねぇ、オータム」
『ん?』
「大好きだよ。世界で一番貴女が好き」
『………くぅ。だ・か・ら、そういうところだから!』
「何が?」
『リザ……ワタシね、これでも我慢してるの。でも今日はナツミと同じになりそう。どうしてくれるの?』
「いいよ。たまには」
『~~~………もう、無理』
私はこの後、たっぷりとオータムに弄ばれた。
でも後悔はない。むしろオータムが本気になってくれて幸せだった。
**********
◆
リザと戯れあって私の気が済んだ後。
今はリザは私の触手に抱かれてぐっすりと睡眠中。
その愛らしい寝顔を見ながらワタシは思う。
今から3年位前にナツミと出会えたこと、それから1年前にリザと出会えたこと。
いずれもワタシの人生を大きく変えた。
それまでのワタシは単細胞だった。
単純にただ生きてるだけだった。
それが今では……。
ナツミがワタシに知識をくれた。
そしてリザがワタシに愛をくれた。
『絶対に手放したくない』
ナツミの知識のおかげでリザに対する愛おしさが良く分かる。
自分の気持ちが完璧に理解できる。
―――好きすぎる―――
ワタシはもうリザを手放すことなんて絶対にできない。
彼女を見ているとあり得ないと思うけど、もしもワタシの前からいなくなろうとするなら、無理矢理にでも再捕獲して二度とそんな思いを抱かないように躾をするだろう。
「オータム……」
『!!』
突然呼ばれてびっくりする。
ワタシが考えていたことが分かったのかと焦ったけれど、どうやらただの寝言だったらしい。
それにしても寝言でまでワタシの名前を呼ぶなんて……。
『そういうところだよ』
またリザと戯れたい気持ちが沸騰してくる。
だけど起こしてまで自分の気持ちをリザにぶつけようとは思わない。
それは可哀想だし、やったらダメだってナツミに教えてもらっているし、ワタシ自身リザのことを大切にしたいから。
『……とは言え』
この気持ちどうすればいいんだろう?
ワタシは私の触手の中で気持ちよく眠るリザを今度は少しだけ恨めしく見ながら途方に暮れるのだった。
**********
◇
それから更に1年後。
件のスライムことナツミさんから(頑張る)ことを教わったオータムは人化の術を手に入れていた。
スライムにそんなスキルはない筈だ。頑張ればどうにかなるなんて聞いたこともない。
「でも、目の前にその実態を証明した人がいるしなぁ……」
人化したオータムは、なんというか私が密かに(もしもオータムが人間だったらこんな感じだろうなぁ)妄想していたよりも遥かに美人な存在だった。
ただ、元々スライムなだけに全体的に相変わらずほんのりと白いのが少し残念ではある。
人化も完璧ではない。姿だけなのだ。
これでもしも(色)があるならオータムは多分褐色の美人さんだろう。
彼女はそんな顔立ちをしている。
ところで私はそんなオータムに膝枕をされている。
(色)はないのに、(感触)は人間のそれが再現されているから困る。
柔らかい。気持ち良すぎてこのままずっとこうしててもらいたいって思ってしまう。
頭を撫でてくれるオータム。
触手で撫でられるよりもやっぱり人の手で撫でられると格段に気持ち良さが上がる。
幸せすぎる。こんなにも幸せでいいのかな。
……なんだか眠くなってきた。
微睡の中、そっとオータムへと手を伸ばす。
それに気づき、私に頭を傾けてくれるオータム。
「ねぇ……、大好きだよ。ずっと……、傍にいてね」
オータムの頬へ手を触れさせてそこを数回撫でる。
その後私は睡魔に敗北して夢の中へと誘われてしまった。
眠気に負けてオータムの頬から手が落ちる瞬間、彼女が「うあ……。言い逃げはずるい」なんて叫んでいたような気がするけど、実際どうだったのか? 分からない。
大好きな人の温もり。優しさ。手放したくない。
私達はこれからも、ずっと……、一緒。
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↑ノクターンノベル
こちらが物語の第一部となっております。
えっと、つまり……大人の方が、その……。
というわけで大人の方で興味を持ってくださる方はこちらから読み始めたほうが分かりやすいかなって思います。