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第6飯 饅頭、包子①

第6飯 饅頭、包子①


「おい、オレ今何語で話してるんだ?」

イサムはハッとして言った。

「散々ガリア語で話してるのに何を今更」

ホンメイが呆れた。


いつものように店に食事をしにきている。

ドニと一緒で入り浸っていると言って良い。


「オレ、そんなのしゃべれねぇぞ?!」

イサムは驚いて言ったが、今まさにガリアの言葉で話している。

「あまり大きな声でそういう事を言うな」

ホンメイは声を潜めた。

「なんで?」

イサムが聞き返す。

つられて小声になっていた。

「私たちが異世界から来たって知られないように、だ。

 面倒事はできるだけ避けた方がいいからな」

ホンメイは小声で説明する。

「ああ、そういうこと」

イサムはうなずいた。


「ちなみに、現地語の会話や読み書き能力はこっちに来る時に最低限困らないよう付与されるんだ。

 スタートセットみたいなものだな。

 あ、でも、ガリア語って言っても、内容はあっちの世界のフランス語とほぼ同じみたいなんだ。

 理由はよく分からんけど」

ホンメイが続けて小声で説明する。

「へぇ、そうなんだ」

イサムはうなずいた。


「ま、基本的な会話と読み書きだけ、だけどな」

ホンメイは言って、何やら空間を指差す。

「なにやってんだ?」

イサムが不思議に思って聞くと、

「なにって、ウィンドウ出してるんだけど」

「RPGかい」

イサムはツッコミを入れた。

冗談だと思ってるようだ。


「そうか、他の異世界出身者にも見えないんだな」

ホンメイはため息。

これのせいで苦労した経験でもあるのだろう。


「え、マジなの?」

イサムはまた驚いている。

「心の中で「ウィンドウ出ろ」って念じれば出るだろ」

ホンメイは面倒臭そうに答える。

「じゃあ、オレもそれ出せるのか?」

イサムはすぐに気付いた。

「多分な」

ホンメイはうなずいた。


(ウィンドウ出ろ)

イサムは心の中で念じてみた。


ピコッ


と効果音がして、RPGっぽいウィンドウが現れる。

黒い下地に白い枠線でできたウィンドウだ。


名前:林一三六はやし・いさむ

性別:男

年齢:24歳

身長:172cm

体重:65kg

職業:調理師

言語:日本語、ガリア語


イサムのステータスが表示されている。

他にも胸囲、腰回りなどのデータが表示されている。


「ホンメイのウィンドウもそこに出てるのか?」

イサムは聞いた。

「ああ。でも見えないだろ?」

ホンメイは素っ気なく答える。


「……」

イサムはホンメイの指の辺りを凝視したが、やはり見えなかった。

(チッ、スリーサイズ見たかったのに!)

イサムは心の中で残念がった。


「……なんか変なこと考えてないか?」

ホンメイのコメカミに怒りマークが現れているようだった。



「おう、お二人さん。なにヒソヒソやってんだ?」

ドニが店に入ってくる。

ニヤニヤしているところを見ると、何か勘違いをしているらしい。

「別にッ」

ホンメイはフンと鼻を鳴らして、そっぽを向く。

「おいおい、イサム。ホンメイさんを怒らせたのか?」

ドニはやはりニヤニヤしながら聞いてくる。

「黙秘権を行使する」

イサムもそっぽを向く。


「なんでぇ、訳が分からんな…」

ドニは肩をすくめた。


「あ、ドニ。良いところに」

アレットが厨房から出てくる。

「今、木の皿とか木のフォークとかをドニから買ってるよね」

「ああ」

ドニはうなずいた。

何の話か分からないので、アレットの続きを待ってる風だ。


「時々、ギョザを持ち帰りたいって客がくるんだけど、容器がなくて諦める人が多いんだよね」

アレットは言った。

「ああ、そうか。木の皿を貸し出せばいいってか」

ピンと来たのか、ドニはアレットの言いたい事を当てたようだ。


「そう、保証金を取って貸し出して、返ってきたら払い戻せばいいんじゃないかな?」

アレットは説明する。

「運びやすくするために、深皿で蓋付きにすれば」

「じゃあ、そういう皿を仕入れてくればいいってことだな」

ドニはうなずいた。


「いっそのこと、店の中にドニの売店を作ればいい」

それまで黙って聞いていたホンメイが言った。

「……ふーん、いいかもな」

ドニはちょっと考えて言った。

経営者の顔をしている。


「売り上げが上がるなら、いいぜ」

ドニはニンマリとしている。

「うへー、オレらが売るんだろ、どーせ」

イサムが嫌そうな顔をする。

「売り上げを上げるためだよ!」

アレットの目が輝いていた。


最近、やっと利益が出てきており、生活が楽になってきいる。

特にアレットは母親が病気がちなので、代わりに働かなければならない。

父親は既に亡くなっている。

この機会にどんどん儲けて財産を、と考えるのが自然だ。


という訳で、店の中に売店ができた。



あくる日。


「ロワリエ伯爵、イースト(ルーヴュル)が欲しいです」

イサムはロワリエに向かって言った。


「なんじゃい、そんなもんどうするんじゃい!?」

ロワリエは不思議そうな顔をした。


いつものように朝から馬車に乗ってやってきたのだった。

ロワリエはこの店に来るのを楽しみにしている。


「新たな肉入りのパンを作るのに必要なんだ」

イサムは答える。

饅頭マントウ包子バオズを作るのにパン酵母イーストは不可欠である。


「ふーん、今の商品で十分だろ?」

ロワリエはちょっと考えてから、言った。

組合と話を付けなければいけないので、面倒臭がってるようである。


「私からも!

 お願いしたい!

 是非!」

ホンメイが耳ざとく聞きつけてやってきた。


饅頭マントウ! 肉包ロウバオ! 菜包ツァイバオ!」

ホンメイは発狂したかと思われるくらいの勢いで叫んだ。

マイ箸を握った拳を突き上げている。


「うおっ!?」

ロワリエは思わず引いてしまった。

「しかし、パン屋組合に入っとらん者にルーヴュルを使わせる訳には……」

「じゃあ、パン屋組合に入ればいいんでしょ!」

ホンメイは言った。

とにかく勢いが凄い。

「いや、だから、パンを作ってない者に……」

「饅頭はパンですぅ!」

ホンメイは言い張った。

「おいおい」

ロワリエは困り果てている。


「まあ、まあ、落ち着いて」

アレットが見かねて間に入った。

店をやっていればケンカをする客は結構いる。

仲裁も手慣れたものだ。


「組合に饅頭とかを食べてもらって、新たなパンとして認めてもらえば?」

イサムが言った。

「あー、それいいかもな」

ドニが同意する。


「上手くいけば、新商品として売れるし、ガロの町の名物にもなるかも知れない」

イサムが続けて言う。

現代の日本では何かと名物を作るのが普通だが、この世界では思いつかない発想らしい。


「お、いいな、それ。饅頭が広まればいつでもどこでも食べれるし」

ホンメイはジュルリとよだれを垂らしている。

よほど食べたいらしい。


「分かった分かった。だが少し待ってくれ」

ロワリエは根負けしたようだった。

「組合に話をしてみるゆえ」

「ヨシッ!」

ホンメイはどこかで聞いたフレーズを言っている。

「おい、なんちゃら猫かよ」

イサムがツッコミを入れた。


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