09 守護
モノカさんの家の、一階の居間。
部屋の仕切りを移動した大広間モードのその場所で、
なぜか、床の上で、正座している、僕。
いろいろ大変だけど、寂しくはありませんよ。
隣には、床の上に、正座している、シジミさん。
僕がおしおきされているのは、昨日の件。
シジミさんがおしおきされているのは、地下工房で爆発事故を起こしたから。
タイミング良く、みんながお出かけから戻ってきた時の、あの爆発音。
そしてシジミさんは『転送』脱出装置でみんなの前に現れたそうです。
でもなぁ、アレが無かったら、エルミナと……
「そろそろ夫を解放して欲しいのですが」
ありがとう、エルミナ。
「きっとあの地下工房の爆発は、リア充爆発と何か関連性があるのですっ。 被害拡大前にぜひ真相を突き止めねばっ」
えーと、アレが噂のモノカさん駄目駄目モード。
エルミナが、困った顔をしているよ。
誰か助けてあげて欲しいな。
「リア充、滅ぶべしっ」
同じ穴のムジナ的ネルコさん、アウト。
「駄目駄目モードになったモノカは、接近禁止の悪魔の槍使い。 うかつに近づくと『ゼファー』でいたずらされちゃうのですっ」
頼みの綱のノルシェさんまで、アウト。
「もう、みんなもっと乙女らしくしてほしいなっ」
僕は乙女じゃないんですよ、アイネさん。 アウトですね。
「今のモノカさんは駄目駄目モード全開ですから、みんなは近づいちゃ駄目よ」
「「「はい」」」
ミスキさん・リカさん・ルミさん・マヤさん、まとめてアウト。
「駄目駄目モードのモノカも、とても可愛いよね、ササエ」
「やり場の無い怒りに震える姿、素敵ですっ、モノカ様」
クロ先生とササエさん、当然のようにアウト。
大騒ぎ状態の居間を抜け出して、とっくに厨房へと向かったマクラちゃん、カウント不能。
そういえば、やけに静かだなと隣を見てみれば、シジミさんは熟睡中でした。
時おりぴくぴく動くネコミミがすごく可愛らしいけど、アウトですね。
ごめんよエルミナ、僕は無力だ。
その時、居間を駆け抜ける一陣の風!
「うひゃんっ」
モノカさんの、なんていうか、アレな悲鳴。
見ると、シスカさん渾身の優しいハグにぎゅってされたモノカさん、絶賛脱力中。
「今のうちですっ」
ありがとうシスカさん。
さすがはエルシニア随一の守護騎士。
武神モノカさんを瞬殺したその技、後で僕にもお願いしますね。
エルミナと手に手を取って逃避行。
さようならモノカさん。
「すみません皆さん、失礼しまーす」
「エルミナ、連れて行きますね」
エルミナと、手に手を取って脱出成功。
行く先は、とりあえずお城かな。
ここまでぱたぱたと走ってきたふたり、ようやくひとやすみ。
「ちょっと、休もうか」
「……」
エルミナ、息を切らしてる。
お顔が真っ赤ではぁはぁしてて、そりゃぁ可愛らしいです。
「結局、駆け落ちみたいになっちゃったね」
「……」
じっとこちらを見つめるひとみは、涙目。
だよねぇ、ロマンチックにとか、みんなから祝福されてとか、そういうのとは程遠かったからね。
「行こうか」
「……」
無言で手をつないでくれたエルミナ。
ふたりで、歩き出す。
ふと、気付いた。
いつも護衛してくれているシスカさんは、いない。
しばらくは人影の無い小道、
今、エルミナを守れるのは、僕だけ。
「ちょっとだけ、待っててね」
『収納』内を探してみると、
食べ物、飲み物、着る物、読み物、
武器は……無いね。
「何も無いけど、何があっても君を守るよ」
手を握ろうと伸ばした僕の手に、
「これを」
エルミナから手渡されたのは、見覚えのある短刀。
「これって」
確か『乙女の守り樹』
乙女が身を守るために、肌身離さず身に付けている誓いの短刀。
「行こう」
この短刀に込められているのは、幼い頃に亡くなったという、エルミナのお母さんの想い。
エルミナの手を優しく握りながら、お城を目指す。