07 告白
おふたりが去った後、
大木のそばで、しばし、感慨深げな三人。
ふと気が付くと、エルミナさんから、熱い視線が。
「それで、カミスさんは、いつ、指輪を、お使いに、なるのかしら」
そんなに強調して言わなくたって、分かってますとも。
えーと、映画で観たシーン、こんな感じだったっけ。
エルミナさんの前でひざまずいて、じっと、見上げる
「……」
「……」
固まっちゃった、ふたり。
「誓いの言葉はまだかな、カミス殿」
シスカさん、呆れ顔。
大事な場面なのにアドリブでごめん、エルミナさん。
「エルミナさんと一緒にいると僕はすごく幸せなんだけど、この指輪がその幸せな気持ちを共有してくれたら、嬉しいです」
エルミナさんが口元をむずむずさせながら、手を伸ばしてくれました。
指輪をはめたら、不思議な感覚が。
なんだろう、幸せ感と嬉し恥ずかし感が、ふわんと増えた感じ。
これが、共有、なんだね。
エルミナさんも、指輪を見つめながら、不思議そうな表情。
「とても暖かい気持ち、なのですね」
喜んでもらえてなにより、です。
なのですが、エルミナさんが、なぜか口元をむずむずさせながら僕を見つめているのですけど。
さすがの伝説級指輪でも、相手が何を考えているのかまでは分からないわけで。
「なんでしょう。 エルミナさん」
ありゃ、なんかまずいこと言っちゃったのかな。
エルミナさん、表情が硬くなっちゃったよ。
「私はカミスさんの妻なのですよ」
「これからは私のことを、エルミナとお呼びください」
僕のことをカミスって呼んでくれたら。
「カミス……」
「エルミナ……」
「まだまだ、先は長そうだな」
シスカさんが、大木を見上げながら、ため息をついたよ。
この先……か。
幸せ気分なところをアレなのですが、
僕もお年頃の男の子なのですよ。
この先に起こるであろういろいろな事を、そりゃあ考えちゃったりするわけで。
って、エルミナのお顔が真っ赤なんですけど。
うわっ、もしかして、感情が共有されるって事は、僕がエッチな気分になっちゃったりしたのも全部分かっちゃうのかなっ。
それって、なんて言うか、大問題なんですけどっ。
……
帰り道は三人とも、言葉少なに、てくてくと。
もちろん警戒は忘れずにだけど、今日の事もいろいろ考えちゃうわけで。
めったに出会えないはぐれ迷宮っていうのに遭遇しちゃって、
みんなが必要としていたスゴいアイテムを手に入れちゃって、
めったに出会えないスゴいおふたりとお茶しちゃって、
異世界ではピクニックもこんな感じになっちゃう、と。
あれ?
迷宮の報酬は、みんなの望んでいたモノ。
シスカさんは、みんなを守れる力としての剣。
エルミナさん、じゃなくてエルミナは、みんなを助ける力としての杖。
僕って、指輪……
そんなに結婚したかったのかな、僕。
なんか、違う気がする。
確かに、エルミナとの関係、あやふやなままじゃ駄目だって、ずっと考えてたけど。
でも、今日やったみたいなプロポーズ的なのって、指輪がどうとか関係無しに、ホントはちゃんと自分の意思でキメなきゃいけなかったんだよ。
エルミナに、とっても失礼な事、しちゃった気がする。
うん、決めた。
自分の意思で、自分の言葉で、やる事、やらなきゃ。
「エルミナッ」
驚いて、こっちを向いたエルミナの前にひざまずいて、
「さっきはちゃんと出来なくてごめんっ」
行くぞっ。
「僕のっ、奥さんにっ、なってくださいっ!」
エルミナが、真っ赤な顔で、こくこくうなずいてくれたよ。
よっしゃっ、僕だって、やれば出来るんだっ。
周囲から、割れんばかりの拍手。
みんなっ、ありがとねっ。
……拍手?
あれ、ここって、
いっつも買い物に来ている、
王都の、商店街っ。
……
その後、エルミナの手を引いて、なんとか商店街を抜け出しました。
顔見知りの八百屋のおばちゃんとか肉屋のおじさんとか、
めっちゃ祝福してくれましたよ。
うつむいて歩くふたりを後ろからずっと見守ってくれたシスカさん、ありがとう。
エルミナを送っていく道、モノカさんの家まで行く途中の人影が減った小道で、
ふたりにごめんなさいしました。
エルミナは、複雑そうな表情をしていたけど、
指輪の力とか関係無しに告白したかったって言ったら、許してくれました。
「素晴らしいプロポーズだった、と思う」
フォローありがとう、シスカさん。
本当に、タイミングって、大事ですよね。
モノカさんの家の前、別れ際に言われました。
「後で、大事な話が、あります」
今日では駄目なの?
なんか、ふたりから、にらまれました。