イライラ
最近彼はイライラしている。
仕事もうまくいっていない。
上司には叱責される。
家に帰れば妻には愚痴られ、子供には無視され。
何もかも消えちまえと思う程、イラついている。
その上、趣味で始めたインターネットの小説の投稿でもイラついている。
1人、ストーカーもどきがいて、彼がアップする小説全てを口汚く罵るのだ。
最初は「厳しい意見」と受け止めていた。
しかし、相手はエスカレートし、「生活態度が悪いのでは?」から始まり、人格否定にまで及んだのだ。
さすがにこれには彼もガマンできず、遂に反論した。
すると相手は、
「小説にはその人の品格や人生観が滲み出るものだ。貴方の小説は貴方の全てを曝け出している」
と書いて来た。
彼はギクッとした。
確かに彼はイライラしながら、私小説的な物語を書いていた。
しかし、自分の事を書いているとは一言もコメントしていない。
見抜かれている。
彼は、このストーカーもどきの人物が、実は高名な作家なのではないかと思った。
そう思うと少しは落ち着き、その厳しい批判を真摯に受け止められるようになった。
やがて彼の小説は賞賛されるようになった。
彼のイライラは収まり、仕事もうまく行くようになった。
ほんのちょっとしたきっかけ。
それが彼を変えた。
彼は営業先が自宅の近くだったので、妻を呼び出し、昼食を共にした。
「どうしたの、今日は? 偉くご機嫌ね」
妻が言った。彼は照れ笑いして、
「そうか?」
妻は悪戯っぽく笑って言った。
「私の小説批評、当たってたでしょ?」