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1-1 白い猫。

目覚めた時の話です。


 話は2ヶ月ほど遡る。


 『にゃあ』と生まれ落ちて一週間目、わたしは自分が猫であることに気づいた。


 人間以外のものに転生する話は、最近のラノベではメジャーな設定だ。きっとそんなに珍しくない。だが、本当に人間以外のものに生まれ変わって、冷静に受け止められる人間--もとい、元・人間は多くないだろう。


「にゃにゃにゃ!?」


 目が開いて、自分か猫であることを悟った瞬間、わたしは思わず変な声を上げた。


(にゃんと、猫ですよ。このもふっとした手、ピンクの肉球。視界いっぱいのもふもふ天国(←兄弟猫たちのこと)。たぶん……、おそらく……、わたしも猫!!)


 驚愕に戦いていると、わたしは首の後ろをつまんで持ち上げられた。


「母様。猫ちゃんが変な声で鳴いている」


 子供の声が聞こえる。わたしを持ち上げているのは小さな子供だ。


(怖い)


 落とされたらどうしようと不安になる。


「にゃあ、にゃあ」


 鳴いて、下ろしてくれと訴えたが伝わるはずもない。震えていると、大人の手に受け止められた。両手で包み込むように持たれる。子供の母親が、わたしを受け取った。


(助かった)


 わたしはほっとする。

 そんなわたしを彼女が覗き込んだ。


「まあ、珍しい。まだ一週間なのにもう目が開いているわ。しかも、左右の色が違うオッドアイよ。右が青で左が緑ね。とても綺麗でとても珍しい。これで毛並みが黒だったら、すごい使い魔になれたかもしれないのに。この子は真っ白な白猫ちゃんなのよね」


 とてもがっかりした顔をされる。なんだか申し訳ない気持ちになった。


「白猫ではダメなの?」


 最初にわたしを持ち上げた子供が聞く。7~8歳くらいの活発そうな男の子だ。


(落とされなくて良かった)


 やんちゃそうな様子に、わたしはしみじみそう思う。


「使い魔は黒猫が一般的なの。もちろん、猫以外の使い魔もいるし、黒猫以外の猫だっている。だけど、猫は毛並みが黒いほど力が強いと言われているので、上級貴族が求めるのはほとんどが黒猫か少し混じりがあってもほぼ毛が黒い猫なのよ」


 子供に説明していた彼女は肩を竦めた。


「じゃあ、この子は売れ残っちゃうの?」


 男の子より小さな女の子が問う。この家には子供が2人いる。


(というか、今、売るって聞こえたんだけど……。ここはブリーダーの家なのかな? そしてさらっと聞き流したけど、使い魔って単語も聞こえたわ。ここは剣と魔法のファンタジーワールドってことかしら??)


 わたしは必死で、親子の会話に耳を傾ける。

 ここが現代日本ではないことはわかっていた。目に映る部屋の内装は強いて言うなら中世ヨーロッパ風だ。親子も明らかに日本人ではない。

 それでも彼らの話す言葉が理解できるのは不思議だが、それは転生者特典とかそういうものかもしれない。


(どうせなら、この世界のことをいろいろと説明してくれる、天の声的な機能をつけて欲しかったよ)


 心の中でぼやくが、もちろん、そんなチートで便利なものはない。わたしがこの世界のことを知りたいなら、親子の会話に耳をすますしか方法はないようだ。


「どうかしら? オッドアイは珍しいし、もしかしたら強い魔力を持っているかもしれない。もし、魔力が強ければ使い魔に選ばれる可能性もあるわ。この子の兄弟猫の中から3匹、ロイエンタール家に引き取られることは決まっているの。もしかしたら4匹目として連れて行ってもらえて、誰かに気に入ってもらえたら買ってもらえるかもしれないわね」


 彼女は微笑んだ。声に切実さがこもっている。売れないと、この家族は困るのだろう。この家にはたぶん、父親的な存在はいない。目が開く前から聞こえていた大人の声は彼女のものだけだ。家計を支えているのは母親なのだろう。


「売れるといいね」


 子供はそう言った。


(なんだろう、泣きそう。切なくなってきた)


「にゃあ」


 わたしは一声鳴く。

 買ってもらえるように頑張るよっていう意味だが、もちろん猫の言葉は彼らには伝わらない。


「猫ちゃん、可愛い」


 女の子が笑った。

 この子の明日のご飯が自分に掛っているかもしれないと思うと、責任を感じる。


(どうすれば使い魔になれるのか、教えてくれたら努力するのに)


 にゃあとしか鳴けないわたしはそんな自分の意思を彼女たちに伝えることも出来なかった。




異世界では猫も大変。

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