表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

超短編集(愛)

常識のない女

作者: M

「君は常識外れだなあ。」


 少し気取ったレストランで、男女が二人。

 食後のコーヒーを飲んでいる時。

 指輪を差し出したのは女だった。


「普通、それは僕がやらなくちゃいけないんだ。」


 男は照れながら笑った。


「君は何をやらかすか心配だ。僕がそばに居ないと。」



***


「君は常識外れだなあ。」


 寝坊した花嫁は、大急ぎで頭を結ってもらっている。


「ワクワクして眠れないだなんて、遠足前の小学生みたいだ。」


 花婿は笑って付け加えた。


「これからは、毎日起こしてあげるよ。」



***


「君は常識外れだなあ。」


 妻は真っ黒焦げになった鍋の前で腰を抜かしていた。


「火を使う時は、必ず目を離さないように。」


 夫も驚いていたが、無理やり笑って言った。


「君が無事で良かった、本当に。」



***


「君は常識外れだなあ。」


 妻が買ってきたオモチャが動かないと子供が泣く。


「ちゃんと電池も買ってこないと。」


 夫は、子供と妻をなだめた。


「さあ、買い物に行こう。」



***


「君は常識外れだなあ。」


 子供の就職祝いのご馳走に、妻はカレーライスを作った。


「いくら大好物とはいえ、もっと豪華な料理のほうが…」


 夫はスプーンいっぱいにカレーを頬張った。


「うまい!」



***


「君は常識外れだなあ。」


 新米おばあちゃんは、孫が生まれてすぐ、離乳食のセットを買ってきた。


「気がはやすぎるよ。自分がやった子育てを忘れたのかい?」


 新米おじいちゃんは笑って言った。


「これは、私たちが雑炊にでもして食べようか。」



***


「君は常識外れだなあ。」


 夫は集中治療室で横たわる妻の手を取り、笑って言った。


「統計では、女の方が長生きするんだよ。」


 珍しく妻が口答えした。


「あなたこそ常識外れよ。こういう時は悲しむものでしょ。」


「君と一緒の間は笑っていたいんだ。」


「そうね、あなたはいつも笑ってくれていたわ。」


 そう言って、妻は目を閉じた。


「君は…」


 男はもう笑わなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ほのぼのしていたら最後に涙腺をやられました。 素敵な人のお話をありがとうございました。
[良い点] いっぱいの愛情を感じました。 とても良かったです。
2020/10/22 16:42 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ