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2話 再び……

 一年が過ぎるのは早いもので、気が付けばあっという間に元旦。


 今年は…… いや、去年は楓に散々振り回され、蒼仁先輩にも散々振り回され、生徒会の仕事にも振り回された年だった。


 春になれば俺も高校3年…… 早々に卒業後の進路も決めておかなければならない。


 その前に蒼仁先輩や吹石先輩の卒業式というビッグイベントが控えている。


 『期待しているよ』と念を押されているから、何かやらないとと今もリビングで頭を悩ませている。


「あけおめー! お兄ちゃん! 」


 8時を過ぎて、我が家のお姫様がTシャツショートパンツ姿でリビングに登場した。


「あけおめ。 雑煮出来てるぞ 」


「食べる食べる! それと、お風呂上がったらお願いね、お兄ちゃん! 」


 すぐにパタパタとリビングから出て行き、風呂場に直行の様子…… 元旦から忙しないことだ。


 というのも、菜のはは中学生最後の正月ということで、友達と振袖で初詣に行くらしい。


「まぁ、母さんの振袖だもんな…… 」


 いつかは着たいと言っていた母さんの振袖も、今年を逃すとサイズが合わなくなってしまうかもしれないし。


 一昨日急遽決まった菜のはの振袖初詣に、着付け役は俺に回ってきた。


 昨日の午前中は藍の家に着付けを教えて貰いに行ったが、ちゃんと着せられるか不安で仕方がない…… なんだかんだで、菜のはに一番振り回されてるのかもしれない。


 散々振り回された楓はというと、母親と一緒に広島の父親の元に行っている。


 今後の生活や身の振り方など、この機会に色々と話し合ってくるそうだ。


 紫苑は元旦から学習塾通い、藍はおじいさんと両親の墓参りでこの街にはいない。


 青葉は強化補習で学校に缶詰め状態なので、昼からはゆっくりと過ごせそうだ。




「はい、お兄ちゃんお願いね 」


 少なめの雑煮を平らげて一息ついた菜のはは、大事に抱えていた母さんの振袖を俺に手渡してきた。


 パタパタとリビング内を走ってカーテンを閉めると、いきなりシャツだけでなくパンツまで脱ぎ出す。


「いやいや! パンツは履いてていいから! 」


「えー? 和服って下着NGじゃないの? 」


「そんなわけあるか! 毛糸のモコモコじゃないんだから別に気にしなくていいんだよ 」


 軽く菜のはを諌め、パッパと着付けを済ませてしまう。


 兄妹とはいえ、程よく育った女の子の全裸は精神衛生上よろしくない。


「あん! くすぐったいよお兄ちゃん! 」


 体に触れる度にクネクネ動く菜のはに悪戦苦闘しながら振袖用の下着と長襦袢を着せ、一時間かけて着付けを終わらせた時には汗だくになっていた。


 これからヘアセット…… まぁ、菜のはの髪は素直だからそんなに苦労はしないんだけど。


「うん! 完璧! 」


 姿見で自分の姿に満足そうに微笑む菜のはを送り出し、ソファに腰を下ろした時にはもう昼前だった。


「疲れた…… 女の子って大変だな…… 」


 振袖は見違えるほど可愛くなるけど、着るのは一苦労…… 藍とおじいさんに習って良かったと実感する。


「さて、菜のはが帰ってくるまでゴロゴロするかな 」


 ソファに横になり、あまり興味はない番組をボーッと見つめる。


 ゆっくりと流れる静かな時間…… 次第に眠くなってきて、ウトウトし始めた時だった。


  ピリリリ ピリリリ


 テーブルの上に置いておいたスマホが鳴る。


 着信は楓のお母さんのスマホの番号だった。


「はい…… 」


 正直、元旦からこのお母さんとは話したくはない。


 楓からなら、親父がプレゼントしたスマホから連絡してくるだろうに…… 何故にお母さんからなのか、なんとなく予想はついた。


 ー 楓が! またあの時と同じに! ー


 電話に出るなり、お母さんはパニック状態。


「わけわかんねぇよ! 少し落ち着いて下さい! 」


 ー ご、ごめんなさい…… 楓がまた、意識を失ってしまったの! どうしていいかわからなくて…… ー


 やっぱり…… アイツ、幽体離脱がクセになってるんじゃないのか?


「頭でも強く打ったんですか? 」


 ー え、ええ。 部屋でちょっとつまずいて、そのままテーブルの角に ー


 何をやってるんだか…… 遠方じゃ助けに行けないじゃないか。  


「今どこにいるんですか? 楓には父親の住んでる広島だって聞いてますけど? 」


 ー ええ…… 貝塚君、来てくれないかしら? ー


 無茶言うな…… 正月で新幹線なんか席取れないし、菜のはを一人置いていく訳にはいかない。


「お母さん、スマホをハンズフリーにしてもらえませんか? 」


 幽体の楓の声がマイクで拾えるかはわからなかったが、そこに楓がいることをまず確認したかった。


「どう…… やるの? 」


 そこからかい…… 一から操作方法を教えて、やっと周りの音を拾い始めたので楓を呼んでみる。


「楓! 聞こえてるなら返事しろ! 」


 ザザーっと途切れ途切れにノイズが入るけど、はっきりと楓の声は聞こえない。


 でもこのノイズが、なんとなく俺の名前を呼んでいるように思えた。


「気合い入れて呼べクマパン! 」


 ー …… っさ…… わね! …… バ…… うま! ー


 今度は聞こえた…… とりあえずの楓の声にホッとする自分が可笑しくなる。


 ー な…… 笑っ………… ! こっちは泣き…… 気分………… からね! ー


 イラついているのか、感情が高ぶると多少なりとも思念が増幅されるらしい。


「あ、ああ悪かった。 とにかく今はどうすることも出来ないから、ちょっと考える時間をくれ 」


 ー 楓はここにいるのね!? 早く、早く助けに…… ー


 気持ちはわかるけど、こっちの事情を考えない母親にちょっとイラッとしてしまう。


「行く手段を考えるからちょっと待ってろって言ってるんです! 」


 乱暴に通話を切って、スマホをソファにぶん投げてしまった。


「さて…… 」


 深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、腕を組んで考えてみる。


 …… やっぱりいかないとどうにもならないよな。


 とはいえ、新幹線の席を取れたにしても、今から広島に行ったって泊まりになるのは確実だ。


 この正月に宿なんて空いてるのか? 菜のはも連れていかなきゃならないし…… そんなお金に余裕があるわけでもない。


「申し訳ないけど、スーパーイケメン先輩に相談してみるか 」


 困った時しか連絡しないのも気が引けるけど、俺はスマホの電話帳を開いて蒼仁先輩の番号をタップし、通話ボタンに親指を添えた。





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