プロローグ
はじめまして。七尾 蕉と申します。
みなさんに楽しんでいただけるよう、がんばります!
それでは「森の叡智 レイン」のはじまりはじまり~♪
静寂の森はいま、殺気に包まれている。
その原因は、すぐにわかった。
森の中ほどで、鎧を身につけた騎士が、激しく剣を交えていたのである。
隣国同士の小競り合いかと思ったが、そのようすがどうにも奇妙なのだ。
斬り合っている騎士たちは、全員がまったく同じ鎧を身につけているのである。
違うのは、兜を着用しているか否かという点だけだ。
「俺様が直々に、その悪魔を成敗してくれるー!」
兜をかぶった騎士は、そう大声でわめき散らすと、一心不乱に黒髪の少年へと歩みを進めた。
残り数メートルというところで、ローブの男がその歩みをさえぎった。
「クラウド」
「殿下、私から離れませぬようにと申したはずですが」
「……すまない」
殿下と呼ばれた少年・シエルは、そう答えると静かに彼の後ろに隠れるように立った。
クラウドはそれを確認すると、向かってきた男の胴体を両断した。
その後も次々と敵を斬り伏せていく彼のローブは、いつしか返り血で真っ赤に染まっていた。
だが、彼らの戦況がよくなる兆しは、一向に見えてこない。
地面に横たわる友や後輩の亡骸が、クラウドの眉間のしわを更に深くさせた。
このままでは、全滅も時間の問題である。
無意識のうちに拳を握り込んでいたのだろう。
彼の足下には、血がしたたり落ちていた。
氷のように冷え切った手に、温かいなにかが触れた。
シエルが、両手でクラウドの拳を包んでいたのだ。
ふたりの視線が絡み合う。
瞳が揺れているクラウドとは対照的に、シエルの瞳はまっすぐ前だけを見据えていた。
クラウドは、参ったな……とつぶやくと、シエルを抱き上げて叫んだ。
「全員撤退せよ! なんとしても生き残れ! 3日後、アルフヘイムにてで待つ!」
そんな彼の力強い声に答えるかのごとく、隊員は大地が揺れるほどの雄叫びをあげた。
合流地点は、アルフヘイム。全員が、生き残るために四散走り出した。
だが、相手の指揮官は迅速だった。
「逃がすものか! 構えろ。放てーー!」
クラウドとシエルを、大量の矢の雨が襲う。
シエルの小さな身体を覆うように、クラウドは自分の身体を盾にして進む。
しかし、背中の数カ所に矢を受けてしまう。
その痛みに、思わずうめき声をあげた。
「クラウド!」
「顔をだすな!」
ようすを伺おうと顔を出したシエルに、クラウドは思わず声を荒げた。
「第2陣、前へ」
弓兵が、再びふたりに狙いを定めた、そのときだった。
彼らの後方から、強い風が渦を巻きながら迫ってきたのである。
それに飲み込まれた鉄の塊がは、まるで紙切れのように円を描きながら空中をただよっている。
そして鉄の塊すべてが風の渦に飲み込まれてしまったときには、すでにシエルとクラウドの姿は森の中へと消えていた。
お読みいただき、ありがとうございました。
主人公……出てきませんでしたね。
第2話ではガッツリ登場しますので、お楽しみに!
それではまた。第2話でお会いしましょう。