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君の國(ほし)  作者: mocha
第1部(現代編) 第2章 野瀬 珠洲
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静かな夜

 20代前半ぐらいまでは男女混合でワイワイやったり、女子会で普通の居酒屋が御用達だったけど、20歳も半ばを過ぎると少人数で落ち着いた店を好むようになっていた。

 居酒屋でも落ち着いた店でもナンパしてくる男はいたが、行きつけの店が増えると、後者の方が男の質がいい事に珠洲や一重(ひとえ)は気づき始めていた。

 落ち着いた店は全般的に酒一杯の単価も高いし、それなりに敷居も高い。自然客層も(ふところ)に余裕があったり、恋愛経験の多いサラリーマンやOLが多くなる。

(別に、私は恋愛経験は多くないけどね)

 この年齢でチーフを務める珠洲は一般のOLより(ふところ)具合はよかったが、色々な理由から恋愛経験に乏しいと思っていた。

 ・・・とにかく、普通の居酒屋よりはこういう店はワンランク上の男女が集う傾向があるのだ。

 もっとも、珠洲の場合は、静かなB.G.Mを聞きながらゆったりと会話したり、一人で気持ちを鎮めるのに、落ち着いた店の方が適しているという理由からだ。

 一人でお酒を飲んでいると、かなりの確率でナンパされる。20代後半になっても珠洲は容姿が整っていて、どこか若く見られる傾向があるらしい。前世の因縁かとも思っている。

「ごめんなさい。今日は一人で飲みたい気分なの」

 そう言うと大抵(たいてい)の男は勝手に察して去って行く。一部の機微の分からない男は失恋でもしたのかとしつこく口説いてくるが、

「お客さん。ウチは『出会いの場』じゃないんで。それに淑女がやんわりと断っているのを察してやるのも紳士ってもんですよ」

 カクテルをシェイクする手を止めず、黒ベスト・黒スーツを見事に着こなした細面(ほそおもて)で細マッチョのバーテンダーに低い声で冷たい笑みを向けられれば、大抵(たいてい)の男はすごすごと引き下がった。

「ありがと」

「どういたしまして」

 バーテンダーはクールに返す。珠洲はここの常連でバーテンダーとも顔見知りだが、それだけではない。中学・高校の同級生だった。

「昔から渋かったけど、まさかバーテンダーになるとはね・・・とても似合ってるわ」

 珠洲は彼の服のセンスを褒めた。

「昔から渋いって・・・老け顔だったってのは褒め言葉にならないよ、珠洲ちゃん」

 そのバーテンダーは苦笑した。

「昔から大人だったって言っているのよ」

 彼と珠洲は特に付き合っていた事はないが、友人の範疇(はんちゅう)では仲のいい方だったと思う。

「今日は一人なんだね」

 バーテンダーはさり気なく聞く。

一重(ひとえ)は残業なのよ」

「なるほど」

 表情はポーカーフェイスだが、彼が残念がっているのを珠洲は気づいた。彼は中学時代から一重(ひとえ)にぞっこんだったのだ。でも、ヘタレで、学生時代は遂に告白する事はなかった。

 大学が別になって、珠洲も一重(ひとえ)も一度関係が途切れたけれど、社会人になって偶然この店を訪れ、彼に再会した時は驚いた。彼も運命的なものを感じていた。この店は友人と来る時は大抵(たいてい)一重(ひとえ)と一緒だった。当然、彼は一重(ひとえ)に話を向ける事が多かった。元々大人でイケメンの彼は学生時代はモテたけど、一重(ひとえ)一筋だったため、他の女性と付き合う事は(ほとん)どなかったようだ。

 一重(ひとえ)一重(ひとえ)で、彼が自分に好意を寄せているのを察していたはずだが、応える素振りはなかった。

 珠洲は一度聞いた事がある。

「3組の藤原君、一重(ひとえ)に気があるようだけど、どうなのよ?」

「・・・・・藤原君にそれとなく聞いてくれって頼まれたの?」

 逆に問い返された。

「まさか・・・だけど、これだけ噂になってちゃ、アレじゃない」

 珠洲は学校で男女関係の機微で友人関係とかがギクシャクするのは望ましくないと思っていた。とにかく藤原に気がある女子は、何故か珠洲に色々と聞いてくるのだ。どうも、一見クールビューティーな一重(ひとえ)には聞きずらいらしい。

「そうは言っても、藤原君から告白めいた事言われてないし」

 一重(ひとえ)ははぐらかした。

一重(ひとえ)は藤原君の事、どう思っているの?」

 私が訪ねた途端、一重(ひとえ)はニヤリと笑った。

「・・・秘密」

 うわーっ大人だと、珠洲が一重(ひとえ)を評した瞬間だった。

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