母の嫌味
珠洲がテレビを見始めようすると、
「全く・・・学生時代は蝶よ花よと言う感じで、男の子が引きも切らず、自宅にまで男の子が押し掛けてきたのに。あんた、自分の事を過小評価しているけど-まあ、今は27だからあれだけど-学生時代のあんたは美少女だって人に会う度に言われてたわ。それなのに高校の途中から歴史だかなんかに嵌まっちゃって、男の子がぱったり来なくなったし、女友達すら連れて来なくなって・・・ああ、一重ちゃんは別ね」
今度は高校時代の話を蒸し返してきた母親は嘆息した。
珠洲にとって高校時代はちょっとトラウマな話だったので、スルーした。高校時代に学校で孤立した事は母親には話していない。三者面談とかでそう言う話も出たが、全面否定した。それくらい触れられたくない事実なのに・・・。
母親の言う通り、高校時代の前半は普通の言動をし、普通の女の子然の振る舞いをしていたので、男子とも交友があった。
「あのね、碌に話もした事ないのに一方的に告白してくるなんてナンセンスよ。少しでもまともな感覚を持っていたら、まず本人に話し掛けたり、本人か友人を通じて携帯電話の番号くらい事前に聞き出すものよ。いきなり固定電話に掛けて来たり、自宅訪問なんて在り得ないよ。それ、はっきり言ってストーカー。犯罪だから」
珠洲は毅然として言った。
「そりゃあ高校時代の話でしょ。大学出て、就職してからはそんな話もからっきしじゃない。25超えてからはそんな浮いた話もしなくなったし」
珠洲にとっては首を傾げるような話を始める。
「一人暮らししているんだから、実家の固定電話に掛けてくる人なんていないわよ。本当に仲のいい人だったら一人暮らししているのも知ってるし、携帯に掛けて来るわ。それから何度も言うけど、年齢の話はやめてよ」
「珠洲、娘の年齢も言うななんておかしいじゃないの」
「そんな事言ってんじゃなくて、一々年齢にかこつけて人に結婚云々の話をしないでと言ってるの」
どこまでもループする母親の話にいい加減うんざりする珠洲だった。
「キャリアウーマンだか何だか知らないけど、仕事ばかりに夢中なっていて、男性とのお付き合いもしないでいたら、あっと言う間に30よ、三十路」
と母親は苦言を呈す。
珠洲は呆れて物も言えなくなる。今日日、未婚で働いている女性がどれぐらいいるのかも知らないのかと珠洲は母を見る。学生時代の友達はともかく、同じ職場で働く先輩や同僚の女性は半数以上が未婚だ。中には30過ぎても未婚の女性は多い。仕事が大変だと言う事もあるし、女性の結婚に対する見方もかなり変わって来ていて、結婚=幸福なんて誰も思っていない。そもそもイマドキ、キャリアウーマンなんて言い方、死語だから。