珠洲の反論
母親の長電話が終わり、受話器を置くのを見計らって、珠洲がやんわりと言った。
「ね、お母さん。お願いだから、電話で私が結婚していない事を言い触らさないで」
普段の鬱憤を吐き出していい気分でいた母親は、珠洲から思わず反撃を受け気分を害した。
「だって事実じゃない」
母親は何を言ってるとばかりに言い返した。
「いくら親子だって、プライバシーはあるんだよ。今は家族の間でもそうゆうトラブルが問題になる時代なんだから、言葉には気を付けてよ」
自分のカミングアウトで失敗している珠洲は実感を込めて言った。
「はいはい」
でも珠洲の母親はまるで反省していないような口振りだった。そして、まるで口煩い珠洲から逃れるようにキッチンへと行ってしまう。
(もうちょっと釘刺しておかないと)
コーヒーを飲み終えた珠洲は、コーヒーカップを持ってキッチンに向かった。母親はキッチンで特に何もする事がなかったらしく、冷蔵庫を開け閉めした。珠洲は流しでコーヒーカップを洗いながら話を続けた。
「お母さんは電話で日頃の鬱憤を晴らしていればいいけど、言われている娘の気持ちも考えてよ。そう言う噂話が巡り巡って、私の婚期を遠ざける結果になるんだから」
(全く・・・わざわざ自分が里帰りしている時に、自分をディスるような電話はやめてほしい)
「最近は家族間でもそうゆうトラブルで裁判になるケースもあるんだから、大概にしてよね」
珠洲の予想以上の剣幕に母親はちょっと引いたが、自宅の会社をパート擬きで手伝っていて、クレームにも対応している母親は存外打たれ強かった。
「・・・随分と理屈っぽくなったねえ。お父さんに似たのかしら」
母親は溜め息混じりに呟いた。
(全然反省してないじゃん!)
「とにかく、少なくとも私が帰省している時にそんな電話しないでよね」
珠洲は念を押した。洗い終えたコーヒーカップを拭いて食器乾燥機の中に入れた。