合コンマスターとの約束
後日、合コンマスターのゴリ押し・・・もとい、約束通りに貴臣と合コンマスターは大学近くの合コンマスターの隠れ家(とっておきの飲み屋)の一つに来ていた。
「へえ・・・大学の近くにこんな落ち着いた店があるなんて知らなかった」
「ふふん。普段は野郎どもには教えないが、あの女の事を聞くためだからな。余人を交えず聞こうとしたら、隠れ家の一つも提供せねばなるまい」
合コンマスターは不遜とも取れる物言いをした。これで通常運転である。「〇〇〇〇こぐれ」のモノマネじゃんと友人に揶揄されて以来、合コンマスターの前では禁句になっていた。ちなみに、モノマネ発言の友人は、それ以降音沙汰を聞かない。
二人はビールで乾杯しながら、それぞれのツマミを注文していた。
「ところで・・・あの年上の女性とはあれから会っているのか?」
合コンマスターが早速核心に触れる質問をしてきた。
「まさか・・・昨日の今日じゃん」
貴臣と珠洲の劇的な出会いから、一週間しか過ぎていなかった。会わないかという連絡はあったが、貴臣は先約が入っていて、せっかく誘ってきてくれたのに貴臣は忸怩たる気持ちだった。ちなみに、翌週にはちゃんと会う約束をしていた。だから嘘は言ってない。合コンの翌日に、友人たちに質問攻めに合いそうになったところを何とか収めてくれた義理分は返しておきたいとは思っていた。
「いやあ・・・俺も合コンや飲み会とかで色んな女に出会って来たが、あれほどのレベルの女は久々に見たわな。高校2年生以来かな」
やはり合コンマスターから見てもかなりのレベルの美人らしい。
「しかし、惜しむらくは・・・」
「惜しむらくは?」
貴臣はオウム返しした。
「俺の守備範囲を2年過ぎてるな。せめて25くらいだったら」
「・・・・・」
(やっぱ前言撤回。もう義理は果たした。しかし、何でこいつ、あの女の歳知ってんだ)
「うーん・・・OLとは思ったが、随分若く見えたから20代前半からと思ったが、あの落ち着きようと一緒に来ていた同僚っぽい女性は年相応な容姿だったから、20代後半-27、8くらい。話し方や仕種がちょっと大人としては未完成な感じがあったから、27歳と断定した。・・・しかし、管理職の風格も宿していたな」
合コンマスターはドヤ顔で言った。まるで貴臣がもらった珠洲の名刺を見たかのような正確さだった。よくそんな事気付いたなと貴臣は感心しかけたが、女好きのコイツのセンサーがボックス席の美人の二人連れに反応しただけなのだろうと理解し、貴臣は冷静さを取り戻した。そう言えば、合コンをしている時、近くの酔っ払いのサラリーマンが二人のボックス席に乱入する事件があって、ちょうど出入口にいた合コンマスターの目に入ったのかも知れない。
まあ、珠洲の場合、ちょっと天然が入っていたり、話し方や仕種が子供っぽいところがあり、年齢と分不相応なギャップがあり、年齢を特定する難易度が上がっているようだが。
「どうだ?正解だろう?」
貴臣の驚き顔を見て、、合コンマスターは更にドヤ顔度を増した。
「・・・ご想像にお任せします」
貴臣は合コンマスターの異能に脅威を感じて、それ以上情報提供すまいと心に誓った。合コンマスターも自分で守備範囲外と言っているだけあって、それ以上は追及する気はないようだった。
「だがなあ、あの女、ちと酒が入っていたようだけど、合コンのメンバーを横合いから掻っ攫ってゆくなんて初めて見たわ」
当事者の貴臣もそれは頷けた。
「まあ、元々野辺は急遽無理言って入ってもらった経緯があるから、あまり深く追求する気はないんだが、どうも気になってな。・・・付き合うつもりあんのか?」
「分からないよ。こっちも心の整理がついてないんだから」
「だよなあ。いきなり年上の美人に誘われたら、俺だって戸惑うもんな」
合コンマスターは別の解釈をしたようだ。まあ、言ったところで信じてくれるか分からないので、敢えて訂正はしなかった。
「で?連絡先とか聞いたのかよ」
「それは・・・僕のプライベートの話だから答えられないよ。相手にも影響する事だし、向こうは社会人だし、何かあった時のリスクは負えない」
貴臣は珠洲を思い遣って、合コンマスターの質問には答えなかった。情報を秘匿するのは、本人がいくら注意したところで、うっかりでいつネット上に拡散するか分からないからだ。
「・・・そうか。じゃあ、あの女は諦めよう。・・・で、あの女と来ていた同僚の女性は?・・いや、同級生なのかな?何か情報はないか?ああいう如何にも才女然として、大人な女も人気あるからな」
合コンマスターの斜め上的な発言に、貴臣は苦笑するしかなかった。