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君の國(ほし)  作者: mocha
第3部(未来編) 第2章 諸々
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社内の駆け引き

 プロジェクト部の部長室で、プロジェクト部長が苦虫を噛み潰したよう顔をしていた。珠洲の降格申し出の件だ。部長としては慰留して、申し出の取り下げに持ち込みたかった。ところがその話が持ち上がった途端、人事課や企画課、総務課が野瀬チーフに接触し始めてきた。今回の件は部長は他言していないので驚いた。

 プロジェクト部部長は副部長を通して人事課や企画課、総務課にそれとなく珠洲と何を話していたか探りを入れるが、プライベートな話なので言えないとにべもなく断られてしまった。プロジェクト部のチーフは社内でも替えが効かないポストで、個人の能力に依存しているのと社内社外の人間を公平に扱えるスキルが求められるため、珠洲を引き抜かれるとプロジェクト部に損失が出る事を理解していた。折り悪く、副部長、一ノ瀬チーフ、野瀬チーフは4月に異動があったばかりで、今再異動をするのが難しいと言うのだ。副チーフもまだ経験が浅く、とても珠洲の替わりならない。今のままでは本人の申し出通り降格するしかないが、副チーフのポストの空きもない。それより上は副部長に当たるが、このポストはプロジェクトの仕事よりも部長の秘書や部外調整が主な仕事のため、珠洲の能力を生かせるとは思えなかった。上層部に相談し、人事にも掛け合ったところ、

「新しいポストを作ったらどうですか?」

 という提案を受けた。プロジェクト部はチーフが室長職(副チーフは課長補佐職に相当)で課長職がいないため、社の規則によればプロジェクト部は欠員状態なのだそうだ。プロジェクト部の特性上、役職が偏ってしまうのは致し方のないところである。ただ、そのような状況で課長相当職を作るのは難しいので、副部長に相当する新しい役職を、と言う打診だった。

(それしかないか)

 元々、各プロジェクトはプロジェクト部部長の傘下にあったが、基本部長が各プロジェクトに指示する場面は少なく、逆にチーフから予算やら人員やらの要望を受け、上層部に報告する場合にチーフと同席する程度で、各プロジェクトの内容を把握した上で統括するポストがなかった。これを機に新しいポスト(チーフ総括)を作り、珠洲を昇格させる事とした。


「えっ!?昇格ですか?」

 珠洲は耳を疑った。

「確か、降格を申し出ていたはずですが」

 何か部長と齟齬(そご)があったかと珠洲は思い返し始めた。

「いやいや、降格の話はちゃんと分かってるよ」

 誤解を解くように部長は訂正した。部長によれば、降格するにしても副チーフのポストの空きがなく、別の部署も思案したが、優秀な人材が他部に流出するのは避けたい。人事課と掛け合い、副部長相当の新しいポスト(チーフ総括)を作り、珠洲を昇格させるのだと言う。

「過大な評価をして頂いた上に、私の身勝手で新規ポストなんて」

「いや、いいんだよ。前々からそういうポストを上層部からも求められていたから、ちょうどいい機会と思ってね」

 このポストは本人の(さじ)加減次第で仕事量が変わる。その辺は野瀬チーフであれば上手くこなしてくれるだろう。今後についても、野瀬チーフが結婚、出産、子育てを考えている場合、欠員とする事も出来た。野瀬チーフが復帰すればこのポストに復職すればいいし、適任者がいれば昇格させてもいい。


 一週間後、珠洲が今度の人事でチーフ総括になる事が発表される。職務内容が部長から説明されるが、降格人事ではないかとプロジェクト内部から批判があり、部長に直談判する副チーフが出る事態となる。

 珠洲がいきなり所属しているプロジェクトを離れたので、理由を説明する羽目になる。

「えっとですね、一応プライベートな事なので部長には降格を申し出たのですが、部長のご説明通り新しいポストを作って頂き、この度昇格扱いとさせて頂きました。今後、皆様にはご迷惑をお掛けすると思いますので、どうぞよろしくお願いします」

 珠洲は頭を下げた。

「いきなりの話なので、取り敢えず第3プロジェクトは副チーフにチーフ代理になってもらう。人員の補充は決まり次第行うのでチーフ代理はそのように」

 部長の説明が終わると、珠洲の元に第3プロジェクトの副チーフがやって来た。

「ごめんね。部長に口止めされてたの」

 珠洲は手を合わせた。

 その話を聞き、副チーフは溜め息を吐いた。

「・・・そう言う事でしたら仕方ないですね」

(野瀬チーフの後任なんて出来るかしら)

 副チーフは不安そうな顔をした。

(しばら)くは第3プロジェクトの引き継ぎを最優先にするから、心配ないよ」

 珠洲は副チーフを直ぐにフォローした。

「ありがとうございます」

 副チーフはほっとしたように頭を下げた。

(この子、優秀なんだけど堅物だからねえ)

「野瀬チーフ」

 見ると、珠洲の周りに集まった社員を押し退けるように一ノ瀬チーフがやって来た。一番前まで来たものの、一ノ瀬は何かを躊躇うようにもじもじしていた。

「何かしら?」

 珠洲が声を掛ける。

「えっと、プライベートって、その・・・結婚すか?」

 一瞬、プロジェクトの社員の半分が固まった。え、何?この反応?と珠洲は戸惑った。

「いや、そんな事決まってないよ」

「あ、じゃあ、彼氏とイチャイチャしたいんだ」

 珠洲は図星を指され、顔を赤くしたまま俯いて固まってしまった。珠洲のあまりに可愛いリアクションに、男性陣はときめいてしまった。

「あっ、うっ、ごめんなさい!ごめんなさい!」

 動揺した一ノ瀬チーフが珠洲に平謝りした。

「い、いいのよ」

 珠洲は(ようや)くそれだけ言った。

「あたし思った事、直ぐ口にしてしまうんで。って、何か一人でしゃべってたら、一人芝居みたいじゃん。誰か突っ込み入れてよ!」

 一ノ瀬チーフは完全に気が動転して、苦し紛れに放った天然ボケにプロジェクト部の社員が爆笑した。

(ホントに・・・ホントにいい職場と人に恵まれた)

 珠洲は少し涙ぐんでいた。

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