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君の國(ほし)  作者: mocha
第1部(現代編) 第3章 遥かな再会
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仕事帰り

 日中仕事がバタバタしてせいか、いつもよりカロリーを消費した日だった。金曜日ということもあり、その日は珍しく普通の酒の肴をたらふく食べたいという要望で、久しぶりに居酒屋に行く事になる。

「いつ以来かしらね」

「うーん・・・2、3か月はご無沙汰だったかな」

 珠洲は記憶を辿(たど)る。普段外食の時はもう少し小洒落(こじゃれた)たお店で軽い夕食にするか、アパートに帰ってから食事する時は近くのスーパーで総菜を買って済ませていた。

 暖簾(のれん)を潜ると店の中は若い活気に(あふ)れていた。季節柄、合コンや歓迎会で店は埋まっていた。

(もう春なのね)

 最近は仕事詰めになると、季節にも疎くなっていた。

 二人は運よくボックス席を確保出来た。普段だったら、カウンター席に案内させるが、大量のキャンセルが出たらしく、カウンター席はぽつぽつと空席があった。

「ドタキャンなんて嫌よねえ」

 一重(ひとえ)が察したように呟いた。二人はカウンター席に腰を落ち着けると、メニューを開いた。

「今日は魚系がいいな」

 今日の胃袋具合を考えながら珠洲はメニューのページを(めく)った。

「そうねえ・・・最近はあまり肉を食べなくなったわね。かと言ってベジタリアンに走る気にもならないし」

「そうそう。野菜は・・・種類が豊富だけど、チョイスが大変だし、お腹に溜まらない。今日みたいにがっつり食べたい時には魚と肉の二択になっちゃう」

 珠洲が同意するように頷いた。メニューのお薦めに目が入った。

「あ・・・このスペアリブ、美味そう」  

「ガチで肉系じゃない!」

 一重(ひとえ)は突っ込みを入れた。

「魚系、これ!ってものがないんだもん」

 ここの居酒屋は日替わりでメニューが変わるので、当たり外れが極端なのだ。結局スペアリブも含め、野菜メインの献立になった。

 一重(ひとえ)は日本酒、珠洲はチューハイにした。昔のようにビールみたいに量の多いアルコールは飲まなくなっていた。

    

「ね、君たち二人?良かった向こうで一緒に飲まない?」

 見ると、自分たちのボックス席に仕事帰りだと思われるYシャツにネクタイ姿の見知らぬ若い男が入り込んで来ていた。指を指し示す方を見ると、3人の男性が手招きしていた。

「ねえ、どうかな?」

 男は少し酔っているらしく、顔が赤らんでいた。

 途端に一重(ひとえ)が渋い顔になる。

「あ、間に合ってるんでお断りします」

 珠洲は朗らかにでもきっぱり断った。

「そんな事言わずにさ」

 あろうことかその男が珠洲の腕を取った。思わずお猪口(ちょこ)を持った一重(ひとえ)が立ち上がり掛けた。珠洲はカチンと来て男の手を振りほどいた。

「二人で飲んでるんで邪魔しないでください」

 珠洲は大きめの声で再度お断りをした。近くのボックス席や座敷から何事かと(のぞ)く客がいた。座敷は大学生らしき男女で一杯だった。

 さすがにまずいと思ったのか、男の友人の一人が立ち上がっていた。

「お客様-」

 見ると、店員らしきやや年上の身なりのキチンと男性がボックス席の傍に来ていた。

「何だよ?」

 横槍を入れられて、面白くない(くだん)の男が口調を変えて店員を睨みつけた。だが、店員に動揺の色はなかった。

「他のお客様のご迷惑になりますので止めていただけませんか?」

 二人は睨み合った。

「出来ないようであれば、お代は結構ですからどうぞお引き取りください」

 店員は外を手で指した。

「客に対して何言ってんだ!」

 男は完全にキレたらしい。慌ててやって来た同僚たちが男を押さえつけた。

「伊藤、やり過ぎ」

 そのまま外に連れ出した。

「すいません」

 最初に立ち上がった同僚が、申し訳なさそうに店員と珠洲たちに頭を下げ、自分たちのボックス席にあった荷物を取りに行き、一万円札を置くと周りに謝りつつ、慌てて店を出て行った。 

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