母の繰り言
これはフィクションです。
時代考証・文語・口語・登場人物等、一部史実に基づいているかも知れませんが、作者の都合よく改変している部分が殆どですので、ご了承ください。
古文・古語は正しい用法等に則っておりません。雰囲気だけお楽しみください。
補助記号
「 」 会話文、文章中の強調
『 』 会話文の強調、過去の会話・文面
( ) 心中表現、詳細説明
(( ))電話・メール・チャット・その他コミュニケーションツール等の会話・文面
[ ] 時系列が混在する場面の会話・文面、詩的表現、他作品からの会話・文面の引用
【 】 テレパシー(精神感応)の知覚化(感覚化)
〈 〉
〚 〛
《 》
〖 〗
遊佐 〇森「〇の駅」を聴きながら・・・・・
「・・・そうなのよ。ウチの娘ときたら、27にもなって、お付き合いしている男の人もいないみたいで、婚期も遠のくばかりで・・・・・今は30過ぎても独身の女性は当たり前ですって?そりゃあそうだけど、あっと言う間に30よ。あたしの頃は遅くとも20代前半には-」
母親がまた電話で友人と娘のことをダシにして囀っている。
(これ見よがしだわ)
久し振りに実家に帰った珠洲は、あからさまに自分に聞こえるように話す母親にうんざりしていた。
キッチンにある昔から使っている食器棚には、子供の頃に愛用していた当時流行っていたアニメのキャラクターの絵柄が施されたマグカップや学生の頃は毎朝使っていた皿が収納されている。
(昔と変わらないな)
珠洲はそう思いつつも、そんな食器類を使わなくなった自分が年齢を重ねている現実を嫌でも突き付けてくる。感傷的な珠洲の心を抉るかのように愚痴を言う母親のデリカシーのなさには嫌悪さえしていた。一人暮らしの独身女性がなかなか実家に戻りたがらない理由を実感し始めている珠洲であった。
一人暮らしの都心のアパートから久しぶりに実家に戻った野瀬 珠洲。
ゆったりと昔を懐かしみながら、寛ぎたいと思っていたが、母親の繰り言に帰省-とは言っても、電車で2時間だが-した事を後悔し始めていた。
(実家って、自分のペースでもっとゆったり出来ると思ったのに)
実際、数年前までは仕事が忙しくて、たまに実家に行くと勝手知ったる事もあってか好きなように振る舞っていた。両親も久し振りに戻った珠洲を甘やかしていた。ところが25歳を過ぎたあたりから急に両親-特に母親-が付き合っている人がいるのか、結婚はしないのかと言うようになってきた。多分、自分の大学時代の女友達が一人また一人と結婚し、結婚式の招待状が届くようになったのが切っ掛けだと思う。親しい友人には一人暮らしを始めてからアパートの住所を教えていたが、たまに高校や中学時代の同級生だったと言うだけで、結婚式の招待状を送って来る場合があり、大抵実家の方に郵送されるので、どうしても母親の目につくのだ。正直な話、特に高校時代は色々あって、その頃の友人とは疎遠になっていて、どうして自分に招待状が来るのか不思議なくらいだった。高校時代からの親友である佐名木 一重曰く、
「そんなの、数合わせに決まってるでしょう」
と一刀両断する。新郎側の友人を絞ったがどうしても多くて、新婦側がとにかく人集めするそうだ。そこまでして数合わせ必要なのかと珠洲は思う。まあ、結婚になると家と家どうしの話になり、親族も含めた色々な思惑が出て来るらしい。そんな話を聞くと、珠洲は益々結婚なんてするもんじゃないと思ってしまう。
とにかく親とはそう言う世間体も気にしなければならず、27歳になっても恋人の影すらない珠洲に風当たりが強くなるのはどうしようもなかった。
母親の繰り言にうんざりして、せっかく豆から挽いたコーヒーの香味も苦いものになっていた。