ああ、妹よ。
…バレたか?!
庭の植え込みに隠れたまま、おれは必死に息を殺す。
今のキモい姿を見られた時点でおれの人生ジ・エンドだ。可愛い妹に嫌われるなんて、その時点で人生終わったようなもんだからな。
…バレてませんように…神さま仏さまブッダさま…どうかバレませんように!!!
え?重複してる神さまの名前があったとか言うなよ。おれは理系なんだ。
おれの必死の祈りが通じたのか、何秒たっても何も起こらず。
「ふぅーーー」
どうやら換気していただけのようだ。
詰めていた息を吐き出して、おれがゆっくり頭を上げたその時、
シャアアアァッッ!!!
(?!)
大きな音とともに、カーテンが開かれた。伸びをする妹の後ろで、朝日に照らされたたまご色のカーテンがまぶしく翻る。
…本来なら、妹の姿を確認したら、すぐ頭を引っ込めるべきだったのだろう。
だが今のおれには、妹以外の何も目に入らない。
涼しい風に波打つ黒髪、光に照らされて薄青に輝く瞳。まるで星のような、天使のきらめき。誰が見ても美少女と疑わないような可愛い顔立ち。
ーーそして、桃色の…ぶらじゃーとぱんつ。
ぱんつ。ぱんつ。桃色ぱんつ。
その単語だけが脳内を埋めつくしていて、おれは下着姿の妹をぽかんと眺めるしかなかった。
そんな様子には微塵も気付かず妹は、
「ふぅーー」
深呼吸して長い髪をかきあげる。
…うっ…うなじが眩しいっ…!
「今日はいい天気だなー」呟いてクルッと後ろを向く。腰のラインがすごい。ぱんつの食い込みがすごい。女の子ってすごい。おれもう死ぬのかな。
くらり、めまいがする。これはきっと死ぬ前の都合のいい夢だ、そう考えるしかない。
…だって信じらんないし!あの、あの清純で恥ずかしがり屋で乙女なうちの妹が…!
あんな恥ずかしい姿でカーテンを開けるなんて…!!
…うちの妹は露出狂だったのだろうか。おにーちゃん心配だぞ。
妹がリビングの中に戻っていく。
ドスンと椅子に腰かけ、足を組む。またくい込みが見えた。
…あれっ、いつもと様子が違うような。
そんなおれの思いをよそに、世界一清純なはずの妹はぼやきはじめる。片手で食パンをひっつかみ、もう片手で脇をかいていた。
「…ったくよぉ〜〜やっとクソッタレ兄貴がいなくなったぜ〜朝いっつも弁当作って待っててチョー迷惑だったんだよなぁ〜」
…えっ。
「つかあいつどこ行ったんだろ。まぁどこでもいいけど早く土に還れよな」
…あれっ。
「なんだこれ?兄貴からの手紙か?…ふーん、〜おにぃたまは友人宅に自分探しの旅に行ってきます。心配しないで、いつでもメールしてね。たまたまより♡〜…きもっ。」
「つか何だよたまたまキモいんだよたまたまいい年こいて自分探してんじゃねーぞたまたま…しかも友達の家で探すんかよ。はぁ、やっぱクソだなたまたま」
…お前今たまたまって何回言ったよ。
…というか、これは、思ってもみなかった事態に…
「あーっ!クソ兄貴め、いい加減あたしの清純さは演技だって気づけよなぁーーーっ!!!」
…まじでー?!
たまたまにいたま。